祝20万記念(34)


こいつはきっともう、映画なんて観ていない。「それくれ」そしてなんというか、この二人のやりとりはテンポが良い。「ええ?」と言いながらもなまえは適当に自分が抱えているポップコーンをつまんでそいつの口の中に放り込んだ。あまりにも自然で、ストレスのないやりとりに、俺は思わずじとりと睨み付けていた。すぐに見つかってにやりと笑われる。「おい、そっちのガキも欲しいってよ」「勝手に持ってっていいのに」はい、と容器ごと差し出されたらそれはもう複雑である。そいつにもやったんだから、俺にもやってくれたっていい。ただ、それをそのまま口にできるような神経は持ち合わせていない。俺以外の誰かであれば全員できるような気がするのがなんとも言えないが、俺は言えそうにないのだから仕方がない。「どうも」と適当につまんでポップコーンを受け取った。人間はこんなに腹の立つ顔ができたのか、という笑顔で煽られているが無視である。

「なまえ、もう一個」
「だから、自分で食べなさいって」

言いながら、なまえはまたしてもそいつの口にポップコーンを持っていき、今度は指先を舐められていた。「あっ」となまえが嫌そうに眉間に皺を寄せたが、この程度、いつものことなのだろう。なまえは然程気にしていないようで適当にそいつの服の端で指を拭っていた。「わざわざ聞くことねえだろ」俺が言うと、なまえは「でも聞いとかないと世界一煩いから」と笑っている。うるさくするだけで言うことを聞いて貰えるのなら、俺だってうるさくして、いや、俺はやっぱり、やらないかもしれない。

「恵ももうちょっと食べる?」
「俺は、」

そのポップコーンが欲しいとか、そういうことじゃなくて。「なまえ―」「うるっさいよ甚爾」そういうことではなくて、そういうことなのだ。懲りずにまた口元に運んでやろうとしているので、俺は咄嗟にそれを掴んだ。「恵?」目の前で、そんな風にいちゃつかれたら不愉快だ。「お、」

「俺にも」
「うわ、かわいい」

なまえはそれ以降、俺にしきりにポップコーンをくれるようになった。ソファに横並びで映画を観る会であったはずなのに、もう誰も映画を観ている人間はいない。なまえはにこにこと笑いながら言う。

「恵、もう一個いる?」
「……いる」
「おい、おいこらなまえ。こっち。こっち見えてっかー? おーい?」

ざまあみろ。やはりこういうのは、日頃の行いがものを言うのだ。


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20201108
いちふじ先生から『伏黒親子サンド』でした。サンドです。ありがとうございました!

 

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