祝20万記念(33)


「お前は、騙されてんだよ」
「……なんで?」
「面白がられてるに決まってんだろうが」
「そうかな」
「ああ、だから、そんな奴からの誘いなんて、」
「でも、行ってくるよ」

紅は私の腕をがしりと掴んで「行ってもなんにもならねェよ」と言った。まだ待ち合わせの時間までは少しあるが、待たせてしまうのも悪い。「離して」と何度も言っているのだが、彼の手が私から離れない。

「本当に来たっつって笑われるに決まってる」
「そんな人じゃないよ……」
「後悔するぞ」

カリムくんは悪い人ではない。これも何度も説明したのだけれど「うるせェ。男なんてみんな一緒だ」の一点張りである。折角友達になれそうなのに、そんな風に言われると悲しくなってしまう。ずきずきと胸を痛めながら「でも、行くから」と繰り返す。

「行かせねェよ」
「約束したから……」
「俺よりそいつのが大事なのか」
「え、いや、そんな話は」

してない。今はただ、私は約束があるから行ってくる、とそれだけだ。私は結構今日を楽しみにしていたから、何を言われても行く。

「俺より、そいつのことが大事なんだったら、行けばいいだろ」
「紅、」

ふい、と顔を逸らされた。手も離してくれたけど、そんな風に言われるのは引っ掛かる。これは、どちらが大事とかそんな話ではなく、仲良くしたい人と、仲良くしては何故いけないのか。紅丸はどうして、こんなに怒っているのだろう。

「ねえ、紅」

紅は時々、よくわからないことを言って私を困らせる。過剰なのではと思うくらいに守ってくれようとするけれど、私の言葉が届いていないようでただ悲しくなる。私がぼうっと立っていると、紅はちらりとこちらを振り向いてぎょっとした。「な、」そして、おろおろとした後にそっと指先が私の方へ。

「なまえ?」
「あれっ」

紅が私に触れる前に、カリムくんが私の肩を掴んだ。そして、私の顔を見るなり彼もぎょっとして、しかしすぐに目元をハンカチで押さえてくれた。シトラス系の香りがする。

「なんで、なにがあって泣いてんだ?」
「ああ、これは、その、大丈夫」
「ホントか?」
「うん、カリムくん、どうしてここに」
「いや、俺はその、お前に早く会いたくて、だな……」

カリムくんはわざわざ私を迎えに来てくれたらしい。ほら、いい人だ。「ありがとう」と私は言って「じゃあ行こう」と歩き出した。いや、歩き出そうとした。ぴた、と足が動かなくなったのは、紅に再び腕を掴まれたからだ。反対側の手で、私はカリムくんを掴んでいる。
カリムくんは、私と紅との間に入ってきた。
紅はカリムくんに向かって言う。

「行かせるわけねェだろ」
「泣かせるような人に止める権利があるんで?」
「ああ?」
「なんです?」

あ、なんだか、仲良くなれそうな感じだ。よかった。


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20201108
このめさんから『浅草出身の大人しい夢主がカリムと若に取り合われる話』でした!ありがとうございました!


 

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