祝20万記念(32)


ヒカゲとヒナタが花火を大量に持ってやってきた。一体何事かと目を丸くしている間にヒカゲはバケツに水を貼って中庭に置き、ヒナタは花火を全部開けて広げて、蝋燭に火を灯した。町は、今日発生した焔ビトの弔いの為に、修復作業で忙しくしているはずなのだが、彼女達はやることがないのだろうか。

「オイッ! 今失礼なこと考えやがったな!」
「ヒカとヒナは暇じゃねェーぞ!」
「ああ、うん、ごめんね。芋羊羹食べる?」

言うと、ヒカゲとヒナタは私が冷蔵庫から取り出した芋羊羹をむしゃむしゃと食べて、声を揃えて「うめェ!」と言っていた。ならよかった。ついでに、失礼なことを考えてしまったことも忘れて貰えて何よりだ。
ついでにお茶を出すと、ヒカゲとヒナタが私を中庭に連れて行って、両手に花火を持たせた。

「派手にやんぞ!」
「とびっきり派手にな!」

宣言通り、ヒカゲとヒナタは全力で花火を楽しんでいる。私は遊ぶのがヘタクソで何度か煙を吸って咳をしていた。その度彼女達に心配されてしまって申し訳なかった。「煙を吸っただけだよ」体の調子が悪いわけじゃないよ、と毎回言う。
山のようにあった花火はみるみるうちになくなっていく。はしゃぎつかれたのか今度は普通に楽しむことにしたのか、ヒカゲとヒナタは静かに私の両隣に座って花火を見つめている。
一体なんだって私の家だったのか、と考えていると、二人は、ぽつりと、今日ここへ来た理由を教えてくれた。

「お前は見られなかったろ」
「だから、若と紺炉が見せてやれってよ」

二人がいないのは、私が泣けるようにという気使いだろうか。本当に、優しい人たちだ。

「ヒカゲとヒナタは、最期、見ててくれた?」

私は、丁度発作が起きて見られなかった。見に行かなければいけなかった。隊員の人が呼びに来てくれていた。けれど。咳がひどくて、近付けなかった。

「ああ、なまえの代わりに見てやったぜ」
「しかも二人分だぞ、コノヤロー」

私たちは二人だからな。と彼女達が笑った。
私は咳が混じってしまったり、涙が出ていたり、いろいろだったけれど「それならよかった」と心の底から言えた。「ありがとう」そして、さようなら。ちゃんと見送ってあげられなくて、ごめんなさい。


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20201107
しやなぎさんから『ヒカヒナと花火をするお話』でした!ありがとうございました!

 

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