祝20万記念(30)


隙が多い。弱すぎる。弱いのはいいことだが、なまえの弱さは少しおかしい。俺は今まで弱すぎて困ることなんてないと思っていたのだが、なまえの弱さにはほとほと困っている。何もないところで転ぶし、いろいろな場所で迷うし、すぐに危ないところに入り込んで行く。弱さだけで言えば、東京皇国、いや、この世界で一番弱いのがなまえであるに違いない。俺は今日も、少し目を離した隙にふらりと消えてしまったなまえを見つけて、腕を掴んだ。

「あれ。黒野くん」

五体満足。怪我はなし。泣いてもいないから、ひどいことを言われたわけでもなさそうだ。俺は深く長い溜息をつく。はあああ。こういう俺の様子を見ると、流石に悪いことをしたと思うのか、なまえは「ごめんね」と謝った。謝るだけだ。改善されることはない。

「あまりふらふらしていると細切れにして腹の中に仕舞っておくぞ」
「こわいね」
「能天気め」

ふん、と鼻を鳴らしてなまえを抱え上げる。彼女は歩くのが大変に遅いので、俺となまえとの移動は専らこんな感じだ。やや視線を集めるが、大した問題ではない。こうしておけば、なまえを確実に捕まえておける。ふらふらとどこかへ行くこともない。「さっきの話」となまえが俺の肩を叩いて言う。びっくりするほど弱い力だった。

「いいよ。私は。黒野くんになら、仕方ないって思えるし」
「そんな勿体ないことするはずがないだろう。帰ったら、どろどろのぐちゃぐちゃにしてやる」
「痛いのは嫌だけどなあ」
「ふざけるな。俺がお前を痛めつけたことなんてないだろう」
「でも黒野くん。やだって言ってもやめてくれないよ」
「それはそうだろう。いじめているんだからな」
「黒野くんの言う事は難しい」

見ると、力が抜けてしまうような笑顔でなまえが笑った。弱くて弱くて、そして愛しい。なんでこいつはこうなのだろう。俺のことを笑顔一つで、あるいは言葉一つで縛り付けて夢中にさせて、実はとんでもなく強い奴なのでは、とわからなくなる。なまえは俺の頭をぎゅ、と胸に抱いて、蕩ける声で言った。

「でも好きだ」

うるさい。俺の方が好きだ。


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20201107
宇佐子さまにリクエスト頂きました『黒野お相手でふわふわ系夢主ちゃんとのお話』でした!ありがとうございました!

 

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