超感謝1周年!/田噛



早朝みんなが起き出すより早く任務に出かけて、なんとか夕方には帰ってくることが出来た。
朝の静けさをとりもどそうとじんわり染まる夕暮れは美しくて、自然と今日を無事に過ごせたことへの感謝の気持ちで一杯になった。
そんな風に何も考えず黄昏ていたかったけれど、少し左肩が圧迫されている。
そんなところを陣取って、彼はまるで人間が愛玩する犬か猫のようである。

「ただいま」
「おかえり、あれ? 田噛も一緒の任務だったんだっけ?」
「いや、そこであった」
「ふーん、そうなんだ……。相変わらず仲がいいねえ」
「ああ」

酒瓶を片手に木舌はそんなことを言って去っていった。私がちらりと左肩の方を見ると、視線に気づいた田噛はあの夕闇よりも鮮やかで光を持った目線をこちらに向ける。
ぱちりと目が合って、そのまま田噛は少し体を乗り出して、私の頭に手を回し、ぐ、と私を引き寄せた。
ちゅ、と掠めるように唇が触れた。
いつものことだが反応に困って見つめていると、もう一度私の頭に回っている手に力が入ったので、私は慌てて田噛の拘束から抜け出す。
恋人だからキスの一つや二つ問題ではないけれど、それでもここは特務室で、他のみんなの目に触れることもあるのである。佐疫なんかは優しくて見なかったことにしてくれるが、谷裂あたりに見つかると説教の一つ二つでは済まされない。
小さく舌打ちが聞こえてくるが気にしないで歩いていく、肋角さんに任務終了の報告をしたら、夕食を食べに向かわなければ。
田噛はめげずにまた私の左肩のあたりにピッタリとくっついて一緒に歩いている。
よほどその場所が落ち着くのか、ふう、と力が抜けて安心しきったため息が聞こえてくる。

「田噛、私は肋角さんのところに行くから先に食堂行ってたら?」
「嫌だ」
「嫌かー……、なら適当に待ってて」
「……………………………………………ああ」

とんでもないくらい間があって、それからようやく頷いた。ううん、まあ田噛の常識の部分が勝って良かった。
肋角さんの部屋のすぐそばの壁にずるずると座り込んでほどなく目を瞑る、はやくしろ、とかそういう言葉がないのはありがたいが、どちらにしろ待たせているのに変わりはなく、はやくしなければ、と思わせられる。
報告は滞りなく、特に問題があったわけでもなく、立て続けに仕事を任されることもなかった。用事はすぐに終わって「ご苦労だった」と肋角さんは少し笑っていた。
私は頭を下げつつ廊下に出ると、眠っているかと思えば、こちらを睨みあげる田噛の姿に少し驚く。
が、お前は一体何を殺すんだと言うような鋭い目はすぐにゆるりといつもの気だるげなものに戻って、歩き出した私の左にぴったりとくっついていた。

「あ、斬島と平腹。今から夕食なんだね」
「お?」
「なまえ、と田噛か」

左側から舌打ちが聞こえる。声に気付いたキリカさんがひょこりと奥から顔を覗かせて、「あら、お帰りなさい。すぐ二人の分も用意するわね」とぱちりとウインクして見せた。慣れたものである。私も田噛もお礼を言って獄卒二人に近付く。
任務帰りで、隣にはずっと田噛がくっついていたからか少し暑い。私は斬島の隣に座ると、帽子をとって髪をかきあげる。幾分か涼しい。

「あ」

その声は、だれが上げたんだったか、斬島と平腹は私の頭の上あたりを見ながら口をあけていた。
何事か、と思った時には首筋に何かが押し当てられた。

「いっ」

たくはないけど、一体何かと後ろを振り返る。
いや、もうわかっているけどひどくされる前に振り返っておく。
田噛は私のうなじにかぷりと噛み付いて、そして離れる際にべろりと舐めて行きやがった。

「ちょっと……」
「なんだよ」

私は隣の斬島に、「ごめんね」と言うと斬島は慣れているから平気だと返してくれた。
田噛はといえばがりがりと椅子を引きずってがたりと私の椅子にぴったりとつける。「よし」と満足そうに呟いた後、ようやく席についたのだった。
ようやく席についたのだが。

「田噛ってよくなまえ噛んでるよなー、美味いの? オレも舐めていい??」

瞬間。
隣の田噛が放つ殺気は斬島をも震わせた。彼は鬼だが、まるで修羅のような凄味で、今にも平腹を刺し殺さんばかりの不機嫌な顔でじろりと能天気な相棒を睨んだ。

「あ?」

地獄の奥底から聞こえるような低音で、食堂をいともたやすく別次元にしてしまった。
平腹も理由はわからないが相棒の逆鱗に触れたことはわかるらしく、意味もわからず怯えていた。
斬島よカナキリに手をかけるのはやめなさい。食堂を本当に地獄にするおつもりか。
私は急いで田噛の背中をさすりながら。

「田噛、落ち着いて……」
「………………………………」

何度か手を行き来させているうちに落ち着いたのかだんだんと食堂はいつもの自分を取り戻して行った。食堂もひと安心したに違いない。
平腹はまだ理由もわからずがくがくと震えているが、まあ多分そのうち忘れるのではないだろうか。心の中でごめんねと言う。
少し殺伐としたが少しくらいならいつものことだ。
私達は食事を終えると、まっすぐ部屋に戻る。

「あの? こっち私の部屋だけども」
「そうだな」
「着替えたりシャワー浴びたりしたいんだけど」
「したらいいだろ」
「……田噛もしてきたら」
「だるい」
「っていうと思ったけど、ほら、そっち、田噛の部屋。遊びに来たら戻るのだるいとか言うんだから、先に済ませてきたらいいでしょ」
「嫌だ」
「今日はやけに強情だね……」
「服貸せよ」
「徒歩一分もかからないから横着してないで一回部屋にもどろうよ……、まったくもう……」
「お前こそ今日は俺にいってきますも言わずに仕事に行きやがってさっさと諦めろ」
「いや、わざわざ早く行ったのはなんのためだと…………!!!」

あ。
慌てて口元を抑えるがもう遅い。
田噛はぽかんとこちらをみていた。私は更に急いで、半ば田噛を突き飛ばすように走って自室に駆け込んだ。
とにかく少し落ち着こうと、当初の予定通り制服を脱いでシャワーを浴びることにした。
鏡に映る自分の姿はすっかり真っ赤になっていて、慣れないことはするものじゃないなと鏡に向かって手を伸ばして、映り込む自分自身を雑に隠した。
入浴を終えて戻るころには、きっと、照れているかどうかなどわからなくなっているには違いないのだ。
そして田噛と言う獄卒は、(やる気はともかく)やらせれば人並み以上にやるし、(行動するまではともかく行動してしまえば)やることも早い男なのである。
すっかり入浴を終えてさっぱりして、いつもの制服ではなく楽そうなシャツとジャージに着替えた後、私の部屋のベッドの上で私が読みかけている本を読んでいた。
こちらに気づいて、田噛はゆるゆると顔を上げる。

「……早すぎない?」

私は言うがそんなものは当然だと返事も寄越さずに、読みかけの本を元あった場所に戻して、じいっとこちらを見据えていた。

「なまえ」
「なに? なにか飲む?」
「ン」

さっさと来いと彼は両手を広げてそれだけ言った。
飛びつくのも素直にそこへ収まるのもどうにも恥ずかしくて、近くまで行って小さな子供にするように優しく頭を撫でてやった。
しばらくは気持ちよさそうにしていたけれど、程なくそうではないと気づいたのか、無理矢理に手を引く。
倒れ込む先にはベッドがあって、田噛はただこの瞬間を心待ちにしていたと、のしかかっている私をきついくらいに抱き締めた。
田噛の纏う空気が違うのがわかる、心の底から和んでいて、そうすることで極上の安心を得られているのだと熱いため息。
言葉は少ないが、そんな態度をされたら私も負けじと田噛を抱き締めるしかないのである。
ひたすらに甘い、が、太股のあたりに違和感を感じて思わず田噛の肩を叩く。

「あ、あの、田噛…………?」

ぐるりと世界が反転する。
田噛の向こうに見慣れた天井。
田噛の息は明らかに荒くて、一分一秒が惜しいのだと無言のままに自らのシャツのボタンを外していく。

「今日は、もうダメだ」

激情のまま唇に噛みつかれて、そこから先のことはあまり良く覚えていない。
(ことにさせて欲しい)


-----------
20170120:コハクさま!
リクエストありがとうございました!
恋人田噛が積極的(?)な話でした! 楽しかったです! ありがとうございます!!!
田噛が積極的とは? としばらく考えた後こういう結果に行き着きました、付き合う前も頑張って隣をキープしたりしたんだろうと思います。
コハクさまも楽しんで頂けていることを祈っております!
この度は本当に、企画に参加して頂きありがとうございました!!!

 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -