祝20万記念(28)


「傘を持って出なかっただろう」

いつも持っている折り畳み傘も、玄関付近に干してあるし、朝は急いでいて、天気予報を見ることもなく飛び出した。だから、午後からの降水確率が六十パーセントだなんて情報も知らなくて、だから、濡れて帰ることを覚悟した。のに。

「斬島。迎えに来てくれたんだ」
「ああ。人間は脆いからな。特にお前は、すぐに風邪をひくだろう」
「そんなことないと思うけど」
「いいや。季節の変わり目には必ず咳をしている」

「花粉だとか埃だとか、生理だとか、難儀だな」斬島は私を大きめの傘の下に招き入れると、ゆっくり歩きはじめた。当然のように相合傘だ。彼を見上げていると、彼は「ああ」と何かに気が付いたようで私とぱちりと目を合わせた。「生理もそろそろだろう? 体を冷やしたら余計にまずいな」ぎゅ、とただでさえ近い体が余計に近くなった。あたたかいけれど、なんだか胸の奥がぐちゃぐちゃする。

「斬島?」
「どうした?」
「なんか、おかしくない?」
「またそれか?」

こういう時、私は必ず、なにか変なことが起こっているんじゃないかと斬島に確認するのだけれど、彼は不思議がりながら首を振るばかりだ。「なにもおかしいことなんてない」「そうかな」「そうだ。俺達は、人間でいえばどこからどう見たって恋人同士に見えるはずだ」だから、おかしくない。

「大丈夫か? 疲れているんじゃないのか」

斬島は私の額に手を当てて「よく、わからないな」と悔しそうにした。「すまない。お前のことをわかってやれなくて」と謝られてしまい、私は慌てて否定をした。「大丈夫!」そのはずだ。斬島が言うように、特におかしいことはない。斬島は充分、私の事を知ってくれている。それこそ、知りすぎているのでは、というくらいに。

「本当に、大丈夫なのか?」
「もちろん。大丈夫だよ」
「痛むところもないのか?」
「ないよ。どこも、おかしくない」
「そうか」
「ちょっと、冷えるかなあ、くらいだよ」

「帰ったら、よく温まろう」と斬島は何度も頷いた。私を引き寄せる腕の力を強める。「風呂に入って、あたたかいものを食べて、同じ布団で寝よう」斬島は言う。

「そうしたら、何も怖いものはない」


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20201107
暁美さんから『無自覚ストーカーと化した斬島と違和感を覚えながら生活する生者の女の話』でした!ありがとうございました!

 

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