祝20万記念(26)


「今、忙しいかな」

と、聞かれた。私は片付けていた洗い物を中断して、手に付いた泡を落とすと「全然?」と笑う。秋樽さんは「いや、忙しかったよな」と頭をかいた。「俺も手伝うから」と言うので、私は「ううん。もう水仕事まとめて明日にしようと思ってたから、平気」と放置した。もうあと少ししかないし、明日に回したところでなんの支障もない。

「なあに?」

秋樽さんの両手を取ってそう聞いてみると「はあ」と彼は溜息を吐いて。私の肩に頭を預けた。そもそも、滅多にない休日で、それでも色々と気を使ってくれる彼が食器を洗っている時に「今、忙しいか」と聞いて来た。よほど疲れていることはすぐにわかる。大事なことは残り少ない洗い物を今すぐ片付けることではない。

「お疲れかな」
「疲れている、というか、まあ、その、あともう少しで出なきゃならないな、と思うとどうもなあ。いや、出るのはいいんだが。それと、君をここに置いて行くのとは、なんというか、天秤にかけられるようなことでもないし」
「もう少しって言っても、六時間くらい? あるよ」
「君は六時間で満足か?」

「あはは」と笑って、しゅんと眉を下げた秋樽さんの頬をつねった。あまり力は入れていないから、きっと痛くないはず。つまめるものがあまりない。

「私はどうしたらいいかな」
「どう、どうしたらいいんだろうな。いや、正直、作業を中断してくれたのが、その、かなりキたなって感じなわけだが」
「そうなんだ」
「そうなんだよ」

彼はまた悩ましげに溜息を吐いて、私をひょいと抱き上げた。そしてそのままソファに座って、私をぎゅうぎゅう抱きしめている。何か葛藤しているようで「けど」だとか「それだと逆に」だとかぶつぶつ言いながら、私は大人しく秋樽さんにされるがままになっていた。そのうち、意を決したように彼が言った。

「時間まで、いいかな」
「いいよ。別に、時間までじゃなくてもいい」
「あっ、そういこと言うのか!?」
「ごめんね。何もできなくて」

この人のやりたいことを手伝えたらいいのだけれど。私にできることは残念ながらあまり多くない。秋樽さんはきょとんと私を見つめていたが、その内、いつも通りの笑顔でにっこりと笑った。手は、私の胸の上だ。

「……よし」

「君がどれだけすごいか、六時間後俺がめちゃめちゃ元気になって証明するから、付き合ってくれ」自信ないなあ、と笑ってしまいたかったけれど、いつ何時でも彼を受け止められる女でありたくて、できるだけ強い笑顔で「いいよ」と返した。


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20201107
遠さんからのリクエストで『秋樽桜備で夫婦感強い夢』でした!ありがとうございました!

 

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