祝20万記念(25)


「ばーべきゅー?」
「まあ、用は焼肉なんだけれど」

川沿いで、浅草の皆も食べられるようにして、盛大にやるのはどうだろうか。と提案した。
ここ数日、連続して焔ビトになる人が出ている。いくら浅草の人たちだって気が滅入るだろう。だから、と私が言うと、町の皆は協力してくれると言う話になった。「焼く食材は任せなよ」と言って貰えて、私はその他必要なものを集めたり、場所を確保したりに奔走していた。最終的に、サツマイモなども大量に寄付され、勝手におでんを作る人たちまで現れ、これは何の会なのかわからなくなってしまったが、ヒカゲとヒナタは串に刺した肉にかぶりついていた。特殊消防隊の人たちはノルマ一本、というか、一本はいきわたる様に焼いてある。

「ええっと、そしたら後は」

お酒の手配に、小競り合いの鎮火など、ばたばた走っていたら紺炉さんに資料を奪われてしまった。「あ」彼はぱらぱらと紙をめくり、これから私がしようとしていたことをすぐに理解し、私の頭をぐりぐりと撫でた。

「ありがとな。後は俺が引き継ぐぜ」
「いや、でも、あの。えっと」
「いいから。お前さんはほれ、若のところに行ってやってくれ」
「ヒカゲ、ヒナタ! お前らも食ってばっかいねェで酔っ払い共見張ってろよ!」
「うるせーコンロ! やってるぜ!」
「もうなんにんしばいたと思ってんだ!」

「ほらな、大丈夫だ」と紺炉さんは笑って、私の背を押した。「ありがとうございます」と頭をさげると「こちらこそだ」と言われてしまった。



「なまえ」

会場を順番に回って紅丸を探していると、名前を呼ばれて振り返る。

「あれ?」
「こっちだ」
「なんでそんな暗いところに」

紅は路地の奥まったところで手を振っていた。すぐに近寄ると、彼はぎゅうと私の体を抱きしめる。「え」身動きができないくらいにぴたりと体と体がくっついていて、ここだけ別の世界みたいになってしまった。

「紅」
「ありがとな」
「え、いや、全然。紅、楽しんでる?」
「ああ」
「そう。それならよかった」

紅はゆっくり私を抱きしめる腕の力を緩めて、私と正面から見つめ合う。こつ、と額同士がぶつかった。「はあ」と息をつく彼は、なにか言いたそうにしているけれど、言葉がみつからないようだった。

「なまえ」
「うん?」

「なまえ」ともう一度呼ばれて、今度は深くキスをされた。一歩間違ったら見られてしまうのだけれど、まあいいか、と彼の背を叩く。いちばんしんどかったのは、きっと、紅だと思うから。

「お疲れさま」

世界が平和でありますように、と私はただ、それだけを祈った。この人が、しんどい思いをしなくて済む世界がいつか、訪れてくれますように。


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20201107
芋さまから『紅丸(第七)で、バーベキューする話』でした!ありがとうございました!


 

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