祝20万記念(24)


「真実を知るまでは、誰の特別にもならないよ」

「やりたいことがあるから」とは、なまえが男を振る為に使う常套句であった。もちろん、振られる側は堪ったものではないから縋りつくように「手伝うから」と口にする。「手伝うから、俺と恋人に」というわけだ。俺からすればふざけているとしか思わない。なまえも同じだろう。ただ漫然と日々を生きるだけの男に裂く時間はないと、にこりと笑う。そうだ。その通り。

「よくモテるな。お姉さま?」
「よくもまあ、こんなものを好きになるよね」

「参った参った」となまえは笑い、俺と、リヒトの所に帰ってくる。「真実を知るために」俺達三人の共通の目的だ。それ以上も以下もない。目的が同じな仲間達。
なまえが露出している肩をさすったので、俺のコートを貸してやった。なまえは驚いたみたいに俺を見上げて、そのあと、男を虜にしてやまないとろりとした笑顔で「ありがとう」と微笑んだ。しかたがない、と思う。俺はあいつらを責められない。お前らには勿体ないという言葉は等しく俺にも刺さってくる。俺にだって、いや、そもそも、俺なんかを選ぶような女ではない。その気になれば、どんな男だっていいのだ。きっとなまえならうまくやる。

「冷えてきたね」
「まだ寒ィか?」
「ううん。大丈夫。あ、ねえジョーカー。なにかあったかいもの買って帰ろう。リヒトもきっと喜ぶよ」
「そうだな。あそこ底冷えすっからな」
「ジョーカーはなにか欲しいものある? あったらお姉さんがナイショで買ってあげよう」
「なんだ? 気前がいいな?」
「君は特別だから」

これも、全員に言っているんじゃねェだろうな。と思うのだが、俺は素直に嬉しくなって「なににしてもらうかなァ」などと本気で悩みはじめている。「真実を知るまでは」「やりたいこととをやりきるまでは」そう言うこいつの言葉もついでにぐるぐると回る。俺も同じだ。リヒトもそうだろう。だから、この気持ちを伝えることだけはしない。「ねえ、ジョーカー」なまえは今日の夜空みたいに静かに笑っていた。どきりとする。

「真実を知ったら、私たちの目的が達成されたら、きっと」

なまえはそこまで言って口を閉ざした。「ううん。やっぱりなんでもない」そこから滲む感情は、気のせいでなければ、俺のとよく似ている気がした。俺もなまえも、同じように、何にも気付いていないフリをした。


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20201107
光さまから『ジョーカーと年上夢主で両片想い風』でした!ありがとうございました!

 

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