祝20万記念(16)


見つかると、だったものが、今では、出社すると、になっている。私は黒野さんと朝の挨拶を交わすなり、彼の黒煙に包まれた。この時期とても冷えるからありがたいけれど、一体なんの意味があるのかは謎だ。焼かれることもないし、痛くされることもない。儀式的に行われるこれは、黒野さんにとってはじゃれて遊んでいるだけの可能性が高いな、と私は思っている。

「これ、なんの意味があるんですか」
「今、流行の風邪があるだろう」
「ああ、はい、なんか、ありますね」
「ウイルスを焼き殺している」
「えっ、黒野さんそんなことができるんですか!?」
「ああ。すごいだろう?」
「へえ……まあでも、あれですね、あんまり皆には言わないほうがいいんじゃないですか?」
「どういう意味だ?」
「だってそんな便利な煤だってバレたらひっぱりだこですよ」
「……そうか。俺の心配をしてくれるんだな」

黒野さんは黒煙を晴らして、私の肩のあたりとか頬だとか、触れずに手のひらを彷徨わせた後、私の頭の上に着地させた。見上げると、まるで普通のお兄さんのような笑顔を浮かべた黒野さんと目が合う。

「ありがとう」



何時頃からだったのか覚えがないが、家に帰ると、紅は必ず眉間に皺を寄せて私を睨み付ける。「……くせェ」私から、彼にとってとんでもなく不快な匂いがするらしい。毎回言われているからいつものことだ。自分の服に鼻どれだけ近付けてもわからない。そんな変なにおいはしていない、と思うのだが。

「うーん? ほんと?」
「さっさと風呂入って洗濯してこい」
「そんなに? なに? なんのにおい?」
「男の臭いがすんだよ」
「男の人? まあたしかに灰島は男の人多いけど」
「あんまりべたべたさすんじゃねェ。お前は俺のだろ」
「紅のなの?」
「浅草のもんは全部俺のだろうが」
「ああ、そういう意味か。びっくりした。告白かと思った」

ぴく、と紅は私の背を押す手を震わせて足を止めた。私も同じように止まって、振り返る。紅はいつも通りの険しい顔で言う。

「告白だったら、どうした」
「え、そうだね。どうしただろう」

まずは驚くだろう。紅が私を好きだったなんて知らなかった。嫌われてはいないけれど、そういう好きだったとは、と。それからは、もし、返事が欲しいという話になれば、万が一、そんなことになれば。

「でも、困るかなあ。すきなひといるし」

にこりと笑うと紅はぎゅっと拳を握ってから、「だろうが」と微かに笑った。安心しているようにも見えるし、強がっているようにも見えた。


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20201107
御影さんから『サイキョーサンド』でした!ありがとうございました!


 

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