祝20万記念(15)


大変だろう? という心遣いは大変に有難いはずなのに、心遣いというものはぶつかることがあるのだと私ははじめて知った。

「僕はほら、帰る方向も同じですから」
「俺だって別に急いでさっさと戻る予定はないからな、トレーニングの一環だ」
「僕のは純粋な厚意っすから」
「そうか。訂正する。俺のもただの純粋な厚意だ」
「素直なぶん僕のほうがポイント高いっすよ」

いや、純粋な心遣いであればやはりぶつかりはしない気がする。何か別のものがひっかかっているせいでこんなに長引いているのだろう。
珍しい組み合わせだな、と眺めるのも飽きてきたのでそっと二人に手を伸ばす。「あの」

「なんだ?」
「どうしたの?」

カリム中隊長とリヒトさんは私のほうを見て、にこりと笑う。さっきまで険しい顔で言い争いをしていたのに。この二人ひょっとして私のことが好きなんじゃなかろうか。いや、年下には優しいタイプなだけかもしれない。「いや」なんでもないしどうもしないが、いい加減に用事を済ませて帰りたい。

「揉めるくらいなら一人で帰りますので」

「ごめんなさい、なんか」私が謝る必要は一切ないとおもうのだけれど、争いの中心にいるのは間違いなく私なので、謝るしかない。実際、理由はわからないが申し訳ないとは思う。カリムさんとリヒトさんはそれぞれ私の手を掴んで普段の冷静さを吹き飛ばした大袈裟さで首を振った。「駄目だよ」「駄目だ」駄目なのか。

「僕が荷物持つから、一緒に帰ろう。女の子の一人歩きは危ないよ」
「そうだ。俺が第八まで送って行く」

私は荷物をちらりと見る。確かにいつもよりは多いが、全然、一人で持てる量だ。そもそも、いつも一人だから、今更危ないと言われてもピンとこない。気を使ってくれるのは有難いが、私では二人からの気持ちを処理しきれない。ぼんやりとしているとまた言い争いがはじまったので、私は荷物と二人とを交互に見る。

「僕が行くんでいいっすよ、カリム中隊長は忙しいでしょ?」
「リヒト捜査官こそ忙しいだろう? 俺に任せてくれればいい」
「いやいや」

うーん。
私はおもむろにぐっと握った拳を二人に突き出した。こういう時はあれだ。じゃんけんは大抵のことを解決してくれるって誰かが言っていた。

「じゃーん、けーん、」

ぽん。
二人は慌てて手を出した。流石はキレ者二人組だ。判断が早い。ただ、突然だったから判断も似通ってしまったらしい。二人は見事に同じ手を出していたので、心苦しいが全て任せて私は先に帰らせて貰った。
もめるとはたぶんこういうことなので、まあ、しょうがない。


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20201107
塩結び(塩抜き)さんからのリクエスト『カリム&リヒト』でした!ありがとうございます!

 

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