祝20万記念(14)


天気の話をしていたはずだ。それが一体どうしてそんな話になったのか、優一郎黒野はぽっと頬を赤くして、一丁前に照れているようで頬をかいた。私はじりじりと距離を取る。次の言葉はなんとなくわかっている。わかりたくないが、わかる。

「それはつまり、俺が好きだということだな」
「そんなことは一言も言ってない」
「言うまでもなく、好きだと」
「言ってません」
「なまえ」

「素直になってくれていいんだ」と言われるが、これ以上素直になることはできない。私は既に誰よりも素直に気持ちを口にしている。思ったことをそのまま喋っている。ある意味楽だが、伝わらないというのは等しく面倒だ。
私は伸びてきた腕から逃れようと思い切り地面を蹴る。ダッシュで逃げる算段だったのだが、ややスタートに失敗したせいで、黒煙に掴まり転ぶことになった。私を転ばした黒煙が下になってくれたので怪我も痛みもないが、とんでもないやるせなさに支配され、機敏な動きができなくなっている。

「不要不急の能力の行使はやめてください」
「必要だし緊急だった」
「そんなわけあるか」
「あるんだ」

言いながら、包帯を巻き直し、転んだ私の上に座った。なんでだ。

「ねえ、せめて手を引いて起こしてくれたらちょっとだけ好感度あがったんですけど。どうして馬乗りになるんですか? 退いてよ重たい」
「用事が済んだら退くし、お前の望み通りに抱き起してやるからちょっとまってくれ」
「抱き起してくれなんて言ってな、」

言ってない。ついでに言えばここは会社の廊下だ。他の社員も数多くいる。何故か誰とも目があわないが、いるのだ。そこに存在している。まあ、この男にとっては関係のないことだったのだろう。拘束した私の唇に噛みつき、べろりと唇全体を舐められた。しばらくちゅっ、ちゅ、と唇を吸われて、ついでに頬やら鼻やらも甘噛みされる。
黒野は気が済むまでそうしていて、終わると宣言通りに私を抱き起した。



なんで普通に会社員をしていて顔を同僚のよだれでべとべとにされるのだろう。トイレでしっかり洗ってついでに化粧も直して出てくると、ばったり大黒部長と会ってしまった。

「また犬に舐められたのか?」
「とんでもねえ大型犬ですよ、部長なんとかしてください」
「よし。俺が消毒してやろう」
「駄目だなこの会社」


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20201107
NACCHIさまからリクエスト『部長か黒野』でした! なんとなくどっちも出てます…ありがとうございました!


 

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