祝20万記念(11)


出汁の味を見ていると、肩にいきなりなにかが乗っかって驚いた。気配もなく後ろに立って、ちょっかいを出して来るのをやめて欲しい。正直とてもびっくりするし、ここが第七の詰所でなければ叫んでいる。びく、と体が震えたのが面白かったのか、犯人はくつくつと笑っている。

「びっくりして熱いお湯とかかけちゃったらどうするんです」
「俺は平気だが、お前はまずいな」
「ですよ」
「悪かった」

悪いと思っているやらいないやら。すり、と私の頬に擦り寄って、ついでにすう、と鼻で息を吸い込んでいる。「あの、恥ずかしいんですが」「あ? ならお前もやりゃいいだろ」そういう話でもないんだけれど。私は紅丸さんの頬をゆるく摘まむ。ぐに、と力をかけるまま潰れる頬が面白い。
仕返しとばかりに同じことをされるので「えへ」と笑ってしまう。気分がいいので作りかけのおかずを一つ差し出した。彼も意図を理解してにやりと笑う。「共犯だな」満足そうに「うめェ」と短く感想を教えてくれて、また私の体をぎゅうと抱きしめる。

「なあ」

おや、と思う。
紅丸さんの手の動きが少し怪しい。右手が、帯のあたりから少しずつ上にあがって、合わせの部分に指がひっかかる。

「こっちが食いてェ」
「え、いや、今は、無理で」
「無理か」
「……はい」
「どうしても?」
「……」

じ、と見つめられて、私は軽く振り返って、紅丸さんの唇にキスをする。ちゅ、と小さく音をたてて。ああ、さっきまで、出汁の味見をしていたから、ちょっと庶民的すぎる味だったかもしれないが。

「これで、勘弁してください」
「しょうがねェな」

はあ、と息を吐いて、ひょいと私の体を持ち上げると、火を止めてしまった。部屋の中に、なんの音もしなくなる。「あ、の」私たちはじっと見つめ合う。紅丸さんは少し焦れているようだ。きゅっと眉間に皺が寄る。好きにやらせてほしい、と目が言っている。

「なんで持ち上げるんですか」
「しょうがねェだろ」
「紅丸さん」
「後の責任は、全部俺が取ってやるから、じっとしてろ」

じゃあ、もう、紺炉さんやヒカゲやヒナタに怒られる役、任せましたからね。私にとって良いことばかりな気がしたが、まあいいか、と首にしっかり抱き付いた。


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20201107
みんさまから『あまい紅丸の話』でしたー!ありがとうございました!


 

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