祝20万記念(10)


いつもよりも早起きをした。そして、そうしている自分はなんだか素敵だと思って、第一特殊消防隊、大聖堂の敷地内を散歩した。朝の清らかな、踏みつけられる前の雪道のような特別な空気感を吸い込みながら歩いている。

「あ」

微かに水音がするな、と音のする方へ行ってみると、バーンズ大隊長と目があった。大隊長も、足音が聞こえてこちらを見ていたらしかった。「君か」言われて、「おはようございます」と少し慌てて返事をした。

「ああ、おはよう。早いんだな」
「えっと、今日はたまたま。バーンズ大隊長も早いんですね」
「年寄りは朝早くに起きるものだ」

この人の、この手の冗談にはとてもとても返事がしづらいので、曖昧に笑って流しておいた。バーンズ大隊長を年寄りだ、なんて思っている人は、この第一にはいない。水道で何かを洗っているらしい、バーンズ大隊長の手元を見る。横には数本の花がよけてある。茎を切るための専用のハサミまで置いてあった。

「花の水替えですか」
「日課でね」
「えっと、私、やりましょうか? そういうのは、したっぱの仕事では」
「はは、気を使わないでくれ。これは私が好きでやっていることだ」
「そうですか」

ならばいいか、と肩から力を抜く。第一に飾られている花は、いつも誰が用意して誰が世話をしているのか気になっていたのだけれど、もしかしたら、バーンズ大隊長がそのどちらもを担当しているのだろうか。いや、好きで、という話ならば担当、と言う言い方はややずれているのかもしれないが。
最近摘まれたばかりなのか、瑞々しく華をつける、カスミソウに手を伸ばす。

「君も花が好きか?」
「はい。と言っても、全然詳しくないですけど」
「なら、それは君が持って行くといい。部屋にでも飾ってくれ」
「いいんですか?」

「ああ」とバーンズ大隊長は笑っていた。朝だからか、二人きりだからか、雰囲気がいつもよりずっと柔らかい。私もつられてへらりと笑う。

「花瓶を用意しないとですね」
「ないのなら、余っているものを一つ譲ろう」
「そんな、そこまでしていただくわけには」
「遠慮するな」

「私がしたくてやっている」とバーンズ大隊長は水を止めて、タオルで手を拭うと、私の頭の上にぽんと手を置いた。

「君は、白い花が良く似合うな」

「とても美しい」というのはそれは、いや、あの、バーンズ大隊長。それは、気軽に女性に言っていいやつじゃないですよ。私がどうにかそう、警告に聞こえるように言うが、彼はにこりと笑みを深めて私の心配と期待とをまとめて打ち返してきた。

「私が、気軽にこんなことを言うとでも?」


-----------
20201107
黄粉もち子さんからリクエストでした! バーンズ大隊長の方で書かせて頂きました! ありがとうございました!

 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -