祝20万記念(09)
なんてことない道で躓いた。転びはしないが少しよろける。そんな時にだ。「何やってんだ」と紅丸さんは私の腕を掴んで支えてくれたりする。それからあたりを確認してコトンと首を傾げてから、「なんにもねェじゃねェか」と笑ったりもする。「間抜け」と言われてしまって私はしばしばどうにもならない気持ちになる。当然のように助けてくれて、当然のように笑いかけてくれる、この現実が、まるで夢のようで、また転んでしまいそうに足が浮く。
「ありがとう」
「あ? 礼を言われる程のことじゃねェよ」
「それでも、ありがとう」
例えばお礼一つを言わなかったと、それだけのことがなにか悪い方へとつながったら嫌だった。彼の好意というものはとても自然なのに、私は打算ばかりだなと落ち込む時もある。とにかくこの新門紅丸という男は大きくて、何故私なんかを選んで隣に置きたがるのかわからない。これを言うと怒るので、あまり言わなくなったけれど、やはり、わからない。
「ほら、掴んでろ」
「けど、紅丸さん」
「あ? 不満か?」
「不満なんて」
そうではなくて。私は言葉を選ぶために間を置いた。不満なんてあろうはずもない。逆に、紅丸さんの方に不満はないのか。いや、これは、私の言いたかったことではない。脱線してはいけない。そうではない。寄り掛かれることも、支えて貰えることも大変に尊い。けれど。
「紅丸さんがいないと歩けなくなったら困るから」
「ああ?」
「また、お前は」と紅丸さんは頭をかいた。
何をするにもべったりではいけない。彼が恐ろしいほどタイミングよく差し出してくれる情に甘え続けていてはいけない。心地よくて、そこでしか生きられなくなりそうだから。「だから大丈夫。そんなに甘やかしたら駄目だよ」転ぶところを、たまには見ていてくれたらいい。全部助けてくれてしまったら、私は。
「俺は困らねェよ」
掴まなかったから、紅丸さんの方から掴まれた。ぎゅ、と繋がる手はあたたかくて、ただ、愛おしい。
「それに、俺はとっくにお前がいねェなら歩きたくねェ」
ずりィだろうが。お前だけ、いつでも逃げられるなんてよ。
ぐっと手を引かれて、指が絡まり、距離も格段に近くなった。
----------
20201107
ハスさんからリクエスト『スパダリ若』でした!ありがとうございました!