祝20万記念(06)


近寄りがたい雰囲気がある。背も高めだし、特徴的な金色の目は何を考えているのかわからない。更に右腕の包帯は重々しく、触れたら爆発しそうな繊細さも見え隠れしている。そんな黒野主任を窓の外に発見してぼうっと眺めていた。
何か一点を見つめているなと視線の先を確かめると、雀が数羽群れていて、平和そのものだ。もしかしてそこに突っ込んでいくんじゃなかろうかとわくわくしていたのだが、あまりに見過ぎたからだろう。黒野主任はこちらに気が付いて飛んできた。ここは三階で、黒野主任がいるのは敷地内の庭だ。文字通り能力を使って飛んで来る。
そんなに簡単に黒煙を使っていいのだろうかと思うのだけれど、平然としているのでこちらからはよくわからない。

「お疲れさまです」
「ああ。何か用か」
「いえ、すいません、ただ見てて」
「なんだ、そうか」

黒野主任は何故か残念そうにそう言って、窓からこちらへ入ってきて、私の隣に立った。クルクルと包帯を巻き直して、きゅっと縛る。

「雀を見てましたね」
「ああ。弱そうだと思ってな」
「カラスよりは弱そうですね」
「そうだな。黒くて大きいと強そうだ」

黒野主任は「はあ」とため息を吐きながら言った。強そうなものを想像するのも嫌なのだろうか。相変わらず面白い人だなと笑ってしまう。「雀は丸焼きにして食べられるそうですね」と言うと「鳥は大抵そうじゃないのか」とまた雀を見下ろしていた。「雀は食いでがなさそうだな」とも。
実の無い世間話に付き合ってくれた後、黒野主任はじっと私の顔を見つめた。普段はこの世界のどんなことにも興味がなさそうな顔をしているのに、こう真っすぐにみられると、奥の奥まで暴かれているような気持ちなってしまって、緊張する。
初対面の時についうっかり泣いてしまって、同期達に「そんなんでやっていける?」と心配されたのは記憶に新しい。

「さっき」
「はい」
「あいつに言われていたことだが」

あいつ。私の中に一人の男性の顔がぶわりと蘇る。馬鹿にしたような笑顔と、見下しきった言葉と視線。いつもそうだが、今日はやたらと長くネチネチ言われた。聞かれていたのだろうか。どうして、と思っていると黒野主任が左手の親指で私の目尻に触れた。それでわかる。そうか。涙の跡。

「気にする必要は一切ない」

近寄りがたい雰囲気がある。背も高めだし、特徴的な金色の目は何を考えているのかわからない。更に右腕の包帯は重々しく、触れたら爆発しそうな繊細さも見え隠れしている。けれどこの人は、私にとって、とてもとても素敵な人なのだ。

「俺はお前が大好きだ」

「今度どうにかしておいてやる。煮るか、炒めるか、直接炎で炙ってみるのも面白いかもしれないな。どうする?」そう真剣な顔で言う黒野主任は、料理法方になぞらえた報復を他にも二つ上げた。

「どうやっても、美味しくはならなそうです」

暗い気持ちが吹き飛んで、楽しくなって笑ってしまった。「よし」と黒野主任は言って、私にハンカチを貸してくれると、窓から飛び降りて去って行った。


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20200926
リクエストありがとうございました!キーリさんから『かっこいい黒野さん』でした!

 

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