祝20万記念(02)


軽快に地下道を走り抜けながらちらりと時間を確認する。これならもう走らなくても間に合うかもしれないが、なんとなく、出口までは走ろうとそのまま進んだ。
ふ、と隣に大きな影が付く。

「よう。今日もギリギリだな。寝坊助さん?」

私の速度に合わせて隣を走るジョーカーさんは私をからかっている風だけれど、今この時間にここを走っているということはこの人だってギリギリのはずだ。

「そう言うジョーカーさんもギリギリですよ」
「俺は本気で走れば余裕だからな」
「本当ですか?」
「ああ。なんなら担いで運んでやってもいいぜ?」
「そんなことできます?」
「言ったな?」

え、と驚く暇も抗議する暇もなく、ひょいと抱き上げられて、さっきまでの三倍くらいのスピードで駆けていく。私を抱えているはずなのにこんなに早く走れるものだろうか。同じくスーツの人たちの視線がちょっと痛いが、これは気持ちがいい。
そうして地下道を出るまで運んでもらうと、後はもう本当に余裕だ。ゆっくり歩いてもしっかり間に合う。「どーよ」とジョーカーさんが笑うので私は素直にお礼を言った。「ありがとうございました。助かりました」ふう、と呼吸を整えると、ジョーカーさんと二人で歩き出す。

「ところで」
「はい」
「今日は髪を縛る時間もなかったのか?」
「ああ」

いつもはジョーカーさんと同じような髪型をしているのだが、今日は髪を下ろしていた。いや、縛る暇、というより、下ろしていてもおかしくないように仕上げるのに時間がかかってしまったのだ。

「いえ、下ろしてる方がいいって言われたので」

仕事中に髪を結び直した時に言われたのだが、折角言って貰ったので今日はと気合を入れたわけだが、走ったせいで少し崩れてしまった。ジョーカーさんは面白くなさそうに真顔でずい、と詰め寄って来る。

「へえ、誰に?」
「え、同じ部署の」
「誰だ?」
「こ、怖いですよ?」
「ちょっと後ろ向け」
「ええ……」

ジョーカーさんは慣れた手つきで私の髪をまとめて、手品のように取り出した髪ゴムで一つに結んでくれた。うん。この方が走りやすいし、落ち着く。

「お前は、結んでる方が似合ってる」

髪に触れると、どこも浮いていなくて、流石にいつも自分もやっているだけあってうまいなあ、と私は呑気に感動した。ぼんやりジョーカーさんを見上げていると、こつ、と額を小突かれて、その後強めに頭を撫でられた。
折角綺麗に結ってくれたのに、もったいない。


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20200915
ありがとうございます!高尾篝さまから『ジョーカー上司夢』リクエスト頂きました!ありがとうございました!!!!

 

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