10000hitありがとうございます!/ソニック


こんな空の日は、たまらなく会いたくなる。
らしくないとか、俺が最強の忍者であるとか、そんなことはどうでもよくて、ただただ、会いたくなる。
ただ、なんとなく、それでも。すぐに会ってしまうのは惜しい気がした。
どう惜しいのかというと難しい。惜しいというより悔しいのかもしれない。
ありがたがってほしい、ということもないが、簡単に会えてしまうのは微妙なような。こう会いに来るのはいつも俺であるから、と言うか、そんな女々しいことでもないような(そもそもなまえは俺の居場所を知らないだろう)、やはり難しい。
だからと言って会わないという選択肢を選ぶかと言えばそうでもない。
ちらりと、物陰に隠れて、なまえを見ていた。
こんなストーカーのようなことをする必要はないし、いつもやるわけではないが、なんとなく、買い物に向かうなまえを観察していた。
なまえは、少しおかしい一般人だが、果たして俺に気付くだろうか。
忍者として、気付いて欲しくないような。
恋人として、気づいて欲しいような。
難しい思いもこの世の中にはあるものだ。ただ、気付いたら、きっと振り向いて笑うのだろうと思うと、ほかのことはどうだってよくなった。
ふと、なまえが空を仰ぐ。
俺も似たように空を見る。
まさしく晴れであるというような、雲のない空だった。
緑は映えるし、普段聞こえない音まで聞こえてきそうな清々しさ。ひたすらに上向きな考えばかりが浮かんで、この下を歩いたらきっといいことがある、世界がまるで別世界になるような、そんな空だった。
なまえも、きっと同じようなことを考えているのだろう。
また、前を向いて歩き出す。
「ありがとうございました」とひとりの店員のやたらでかい声がした後、なまえがスーパーから出てきた。ネギが、袋から出ている。
そういうベタなことをしたくなる、そんな気持ちもわかる気がした。
今日はそういう空をしている。
何をしても許されるような、そんな空。

「あら、なまえちゃん」

帰路へついてしばらく、なまえが角を曲がると、なんだか聞いたことのあるような声がする。
これは近所の主婦だろう。名前は、残念ながら忘れてしまった。
俺も何度か話したことがある。
なまえが「こんにちは」と頭を下げた気配がした。

「あら、立派なネギねえ。今日の特売品よねそれ。まだあったかしら?」
「まだ大丈夫ですよ、いっぱいありました」
「そう、それはよかったわ。思ったよりもいいものそうだし、買いに行かなくちゃね」
「はい、今日はまだ暑くなるみたいですからね」
「ええ。それはそうとなまえちゃん」
「はい」
「今日はあの子と一緒じゃないのね」

あの子。
というのは。
俺だとは思うが、どきどきと胸のあたりがうるさくなった(はじめてなまえのあとをつけた時も大層昂ったものではあるが、だんだん慣れてしまったし、最終的には会っている方がいいと考えるようになり付け回さなくなった。だからこれは本当に久しぶりなのだ。断じて常習犯ではない。断じて)。

「ええっと、黒髪の男の子ですか?」
「そうよお、美形の!」
「ははは、彼、今日はいないんです」
「そうなの? 残念ねえ」
「はい」

すぐそばから声しか聞こえないが、きっとなまえは、また空を見上げて。

「こんな空の日は、たまらなく会いたくなりますけどね」

聞き終わった、一瞬後。

「あれ?」

風より早く、主婦のからかう声より早く。
なまえをその場所から連れ去った。
なまえは、俺に抱き抱えられて、不思議そうに首をかしげている。
ふわりと地面に降り立つと、そこはもうなまえの家の前だ。

「……はやく鍵を開けろ」
「あっ、うん」

「こんにちは?」なんてとぼけた声音で挨拶しながら鍵を開けている。
一応、返事を返して、がちゃりという音と同時に扉を開けて、後ろ手に鍵を締める。
なまえはまだぼうっとしていて、「あ、ここは私の家か」とアホそうなことをつぶやいていた。
けれどやらなくてはいけないことはわかっているらしく、俺の肩をぺしぺしと叩きながら言う。

「ソニック、冷蔵庫」
「………今か?」
「今じゃないと豚バラが腐るよ。豚は2度死ぬ」
「……」

仕方が無いので冷蔵庫の前で下ろしてやると、もうすっかりいつもの調子だ。
手際よく冷蔵庫に買ってきたものを詰めると、「よし」と得意げだ。
よし、と、なまえは言った。
冷蔵庫に片手をついて逃げ場をなくすと、こちらを向いた瞬間にぐいと抱き寄せる。
じわりと広がる熱は、少しも鬱陶しくはない。
なまえの体はどこもかしこも柔らかい。
外を歩いていたからか、いつもよりも強くなまえの匂いがする。
酔わせるような、甘美なそれは、時折感じるけれど、今日は一層強い。

「ソニック?」
「ああ」
「今日はいい天気だね?」
「知っている」
「でも、びっくりしたよ、瞬きし終わったら景色が違うし、高さも違うし、地面に足もついてないし、なにをし、ん、」

なにをしたのか。
などという質問は無粋極まりない。
なまえを自分に押し付けて黙らせる。
黙らせられたのがわかって、なまえはそれ以上何も聞かなかった。

「なまえ」
「ん、うん、」
「なまえ、」
「うん」
「」

なまえ。
とうとうその、音は声にならない。
湧き上がる、どうにもできないような愛しさを、どうにかして外に出してやりたいのだけれど、どうするべきかわからない。

「(すきだ、)」

言葉にしたら、軽くなる。
抱きしめる力がどんどん強くなるが、程なくなまえが「ちょっといたいよー」と楽しげに笑った。
例えばこの、なまえが楽しめなくなるくらいの力とはどのくらい、なのだろう。
試したくなるが、やめておく。
少しだけ緩めると、自由になった腕が俺の背にも回る。
ただそれだけのことが、たまらなく幸福だった。

「んー」

なまえも、リラックスした様子で俺を拒む様子は一切ない。
なまえを抱き上げて、今度はソファまで行って、足の上に座らせる。

「えーっ、と?」
「こっちだ」

すうっと、二人の間を新しい空気が通り抜ける。
それがたまらなく嫌で、すぐにもう一度ぴたりとくっつく。
窓から空が見えた。
相変わらず真っ青で、外に出たくなる気もしたけれど、なまえにあえたのだからもう会いたくなった理由に用はない。
ただ俺は、なまえを愛していればいい。
思わず首に噛み付くと、なまえが驚いてびくりと震えた。
ああ。
だからしかたがない。
こんな日はなまえを離したくなくなるし、なまえの背中をなでる俺の手が、なまえの羽織っていた服を放り投げて、ぷちり、と拘束具を外してしまうのも。
しかたがないことなのだ。


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20160511:以下コメント返信
リクエストありがとうございます!
「ソニックが夢主ちゃんを好きで好きでたまらなくて、いっぱい抱きしめる」話を書かせて頂きました! 
このお話を書くまでにたくさんコメントを下さり、本当にありがとうございました。
そして、大変お待たせ致しました。楽しんで頂ければ幸いであります。
おかげさまで10000hitも達成し、このお話で今回のリクエスト企画完走となります。
ここまで読んで下さって本当にありがとうございました。
おかげさまで書き上げることができました。
このたびは、本当に本当にコメント、リクエストありがとうございました!
それでは、是非また遊びにいらして下さい。
これからも細々とがんばっていきます!

 

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