10000hitありがとうございます!/ソニック


それはただの直感で。
私はそれを3秒で受け入れた。
それだけのことだ。
俗に一目惚れというこの現象の名前は知っていて、でも自分に起こるなんて思ったこともなかった。
その現象の5秒後には涙が止まらなくなって、情けなかったけれど、そのおかげで話しかけてもらえた。

「……」

その黒い人は、怪訝そうな視線をこちらによこした後。
軽く後ろを振り返ってから、嘲笑うようにふっと笑った。
群衆の中から見つけたたったひとりの人は、とても綺麗に笑っていた。こんな綺麗に笑われたら困ってしまう。

「なんだ? 人の顔を見て泣くとは……、さては似た男に振られでもしたのか」

似た人なんて見たことがありません。
世界一綺麗ですよ。
なんて、そんなことをすれ違いざまに言えるほどの恋愛経験も度胸もなく。
ただ、首を横に振った後に、どうにか愛嬌だけは出せただろうか?

「―たった今、恋をしたんです」

その人は不思議そうにしていたけれど、「かっこいいお兄さん、お名前は」と言うと、「音速のソニックだ」と教えてくれた。
自分に自信のある人のようだ。
名前もきっと、気に入っているのだろう。
それからは、とにかくがんばって、邪魔にならないような距離をはかり続けて。
気軽に名前を呼ばれるくらいには、仲良くなることに成功した。
ソニックさんは割合に、懐いてくる人間を邪険にはしないようで、私を側においてくれた。

「ソニックさん」
「……なまえか」

たぶん、だけれど。
ソニックさんは私が誰に恋をしているのか気付いているんじゃないかと思う。

「これよかったら、お昼にと思って。受け取って貰えますか?」
「ああ。いつもすまないな」
「とんでもない、好きでやってるんですよ」

好きで好きでしかたがなくて、やっているんですよ。
ソニックさんが気付いていたとしても、そうでなかったとしても、こんなふうに話ができる仲になれたのだから幸せだ。
例えば体良く使われているのだとしても、それも幸せだ。
使われるということは、役に立っているということだと思う。
彼は綺麗な顔をしているし、とてもとても強いから、女の子、なんてものは好きなのを選べるだろうけれど、多くいる女の子の中から、今日は私の作ったお昼ご飯を食べてくれるのだろう。
こんなに幸せなことがあるか?
今の私には、これが一番だ。

「では、ソニックさん。お疲れの出ませんように」
「……」

無意味に話し込むことも、居座ることもしない。
本当は見ていたいけれど、集中出来なかったりするかもしれない。
邪魔だと思われるのも嫌で、あと、弁当を、ただ優しさで受け取ってくれているとしたのなら、食べられないほどまずかったなら、そういう場合、私はいない方がいいはずなのだ。
まあ、彼はひどく優しげな笑顔で弁当を受け取ってくれるので、捨てはしないと思うが。念のためというか、理由は多ければ多いほど、ここをさらりと離れられる。
いつもそうだ。
だから、今日もそうするつもりだった。

「お前の分は持ってきていないのか」
「えと、お弁当ですか? はい。邪魔になるかと思って」
「次からは、持ってこい」

あれ。
それは。
量が足らないということだろうか?
なーんて。
ほんとは、一緒にお昼を食べられることを期待している。
あくまで私は「はい、わかりました」とだけ言って、笑って、今日のところはお暇した。
家に帰ると、声を出さないように奇声をあげて、近所迷惑にならない程度に転げ回った。

「こんにちは、ソニックさん」
「なまえか、忘れてはいないな?」
「はい、ちゃんと2人分ですよ」
「ああ。ここに座れ」
「ー、はい、」

ああ。
何度か近づいたことのある距離なのに。
どうしてこんなにもどきどきするのだろう。
いつもの私はどこへ行ったのか。
まるで、私ではないみたい。
まるで、自分ではない、恋する乙女をみているみたい。
足を踏み出すごとに、肩が、足が、腕が。強張っていくのがわかる。
なんだろうこれ。
ああ、ただこの感覚を自覚する度に感情が。幸せだって感情がこみ上げる。
私はどこへ行くの?
いま、すとん、とソニックさんの横に座った。
本当にかっこよくて仕方が無い、憧れて憧れて仕方が無いすごい人に、サインをもらったり、写真を撮ってもらったり。
そんな気持ちによく似ている。
恋に似ていて、私はどうしようもなくこの人のファンで。
ファンのようでいて、どうにかこの人の居場所になりたいと思っている。

「いただきます」

ソニックさんの声。
食べるところを初めて見る。
何度か咀嚼すると、ごくりと飲み込んだ。

「食わないのか?」

私がその様子をあまりにも見るものだから、そう言われてしまって、慌てて目をそらす。
かっこよくて綺麗で、なんだろう。
その一言一言で死んでしまいそうになる。

「うまいぞ」

に、と笑うソニックさんの顔を、この残念な両目に焼き付けて、私もそっと箸をつけた。

「あ、」

卵焼きをどうにかこうにかつかんだところ、ソニックさんが直接その卵焼きをさらっていって、これは恋人がよくやる(のか?)、あれになってしまったのでは?
でもそれはもうよくって、ソニックさんが、口をつけた私の箸をどうするべきかじいっっと悩んでいたら、ソニックさんは盛大に吹き出した。

「さてはお前、馬鹿だな?」

笑いを堪えながら、こちらにすい、と器用に箸で挟んだウインナーを差し出して。

「ありがとうございます、」

それをおとなしくもらう私は、ソニックさんの言うように馬鹿なのだろうと思った。
ソニックさんは笑っていた。
たぶん、私も。


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20160510:以下コメント返信
リクエストありがとうございます!
10000打ありがとうございます!
おかげさまで、まだまだカウンターは回っているようです。
リクエストの「ソニックに一目惚れして懐く話」を書かせていただきました。
打算もなく裏もなく、ただただ明るく時に失礼なことも平気で言うけどほっとけない、みたいな女の子を書くのが苦手なせいで、どうにも可愛げのない感じになってしまいましたがどうかお許しください……。
今度挑戦してみます。
どうにか、どうにか楽しんで頂けていればなと祈るばかりです。
コメント、リクエスト本当にありがとうございました。
もしよろしければまた、よろしくお願い致します。

 

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