15万打リクエスト(33)


電車の中で時々、見られているような気配がした。
気になって周囲を見るが誰とも目は合わない。気のせいだったかと本に目を落とすと、やっぱり視線を感じて落ち着かない。そういう日が何日か続いた。ふと用もないのに車両を移ると気にならなくなったので、そこで一気に不気味になった。誰かに見られていたのは間違いないことなのかもしれない。
とは言っても、見られている気がする、だなんて不確かな情報だけではどうしようもない。通勤手段を変更しようか迷ったのだが、自転車で行けるような距離でもないいし、バスも丁度良い路線はない。車も持っていない。そもそも免許がないから、引き続き電車に乗るしかないわけだ。
ある日、おかしな電話がかかってきた。かちゃりと受話器をあげるが「もしもし」と言ってもなにも返って来ない。不思議に思って電話を切ると、次の日にもかかってきた。一度だけ「なんなんですか」としばらく受話器を耳に押し付けていると、人の呼吸音のようなものだけが聞こえて来て鳥肌が立った。以来、電話には出ていない。最終的に一時間おきくらいに電話が鳴る様になり、電話線を抜いておくことにした。
すると、次は駅から家までの間、誰かにつけられているような気がする。私は何度も後ろを確認するのだが、よほどうまくやっているのか誰もいない。ここまで来るともう部屋の外には出たくないので休日もひきこもることが増えた。それを見越して、だろうか、アパートのドアが何度も乱暴に叩かれたことがあった。「ひっ」と小さく悲鳴を漏らしてしばらく部屋の中で丸くなっていた。この事件を隣の人が犯人の顔と共に見ており通報してくれることになった。これで安心かと思われたが、私の生活自体は変わらない。
しばらくは平穏に暮らしていた、ある日のことだ。
道路の向こう側から人が歩いて来る。
私は何故か大変に嫌な予感がした。かなり距離があったが、車が来ないことを確認して道路の反対側に移った。すると、向こうも私の正面に移動する。嘘でしょう。顔を上げると、その人間はにい、と笑った。
私はくるりと背を向けて走り出した。向かう先はどこがいいのだろう。わからない。近くの民家だろうか。交番だろうか。それともコンビニやスーパー? 後ろから誰かが走ってくる音がする。どうしよう、どうしよう、どうしよう。――掴まったら、どうなるのだろう。

「エクス、カリバー!」

声がした。それから、青色の光で、辺りが急に明るくなる。
振り返ると、金色の髪の男の子が丁度青色の剣を鞘に納めるところだった。助けられた。このオレンジのツナギは特殊消防隊? 「大丈夫か」と言われて私はぴっと背筋を伸ばした「は、い」大丈夫。おかげでなんともない。私を追いつめていたらしい男は地面でびくびくと震えていた。
この男の子のことも警戒したほうがいいのかもしれない、という私は確かにいるが、私はこの子を警戒することができなかった。心の底からほっとしてしまい、身体から力が抜けていった。
まず、言わなければいけないことがある。

「あの、ありがとう。君の名前は……?」
「アーサー・ボイル。騎士王だ」

私の気分を切り裂くように笑うから、私は久しぶりに思い切り笑顔を作った。


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20200705:
リクエストありがとうございました!みそだれさんから『ストーカー被害から助ける騎士王の話』でした!

 

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