15万打リクエスト(32)


煙草の匂いをさせていた。俺は反射でなまえの腕を掴み、ぐるりとこちらを向かせた。その後壁に追いつめてぎろりと見下ろす。こいつ。俺という男がありながら。

「オイ」
「うわなに、怖っ」
「なに、じゃねェ、お前こそなんだ」
「ええ?」
「どういうことだ。説明しやがれ」
「いや、紅こそどうしたの。なに?」
「しらばっくれようってのか」
「だからなにって」
「あァ?」
「怖いってば! 紅のバカ!」
「あっ!? オイ待ちやがれ」
「うるさい! 頭冷やせ!」

逃げ足だけは早い奴である。俺は行き場を失った怒りの矛先をどうやら今のやりとりを聞いていたらしい紺炉に向けた。



「なまえはそんな奴じゃねェでしょ」
「逃げただろうが」
「そりゃ若が追いつめたからで」
「他の男の臭いさせてても問い詰めんなってか」
「それだよ」
「あ?」
「煙草の臭いがするって言やァいいのに、そこ黙ってちゃわからねェだろ」
「……言ってなかったか」
「そりゃなまえも頭冷やして出直してこいって言うぜ」
「……」

ぶつけた怒りは秒でまた行き場がなくなった。いや、しかし、なんの話をしているかわからなかったにしても、臭いがつくほど近くに居たのは確かだ。俺は「迎えに行ってくる」とだけ言い残して詰所を出た。
なまえは案外近くでヒカゲとヒナタと遊んでいた「わかじゃねーか」と言う双子はこちらに寄って来たが、なまえはぎょっと視線を逸らした。俺はヒカゲとヒナタに先に帰っているように言って、再びなまえに詰め寄る。

「煙草」
「単語で喋らないでくれます……?」
「煙草の臭いがすんだよ。なにしてた」
「煙草……? ああ、賭場に配達。あそこ皆煙草吸うでしょ」
「普段はさせてねェじゃねェか」
「今日はたまたま時間あったから遊んでたの。それだけ」
「……」

それだけ。「本当だろうな」と確認すると「あんまり根拠もなく疑うようなら怒るけど」と言われて黙るしかない。まだ釈然としないところはあるが、俺はぐっとなまえの腕を掴んで納得いくまで俺の匂いを刷り込んでやろうと歩を進めた。

「なら、帰るぞ」
「え、いや、私まだ」
「帰るぞ」
「いやいや、勝手か?」
「帰んだよ」

なまえは「予定があるって言ってるでしょうが!阿呆!」と俺の頭をぶん殴って抜けていった。あいつの逃げ足の速さを鍛えたのは俺かもしれない。「またね」と去って行くなまえに、しょうがないから手を振った。次会った時は覚えておけよ。

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20200704
リクエストありがとうございました!椿さんから『若に嫉妬される話』でしたー!

 

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