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パーン中隊長の笛の音に「はいっ」と第四の隊員が勢いよく返事をした。次は戦闘訓練をするらしい。隊員は準備のためにバラバラと散って行くのになまえだけは「……は?」と言いながらぽつんと立っていた。「は?」絶望した顔で周囲を見ている。俺はすかさず近くに寄って行って肩を叩く。

「先輩! 次は戦闘訓練らしいですよ」
「は? 誰がいつそんなこと言った?」
「いや、今さっきパーン中隊長が笛で」
「……わかった。ありがとう」

なまえさんは死にそうな顔をしながら準備に入った。隣を通りかかった火隣が「どうしたんだ?」と聞いて来たので「いや、なまえ先輩が」と言うと「ああ」と納得した風だった。「あの人、なんで未だにパーン中隊長の言ってることわかんねェんだろうな」正確には笛を鳴らしただけで言ってはいない。なまえ先輩ならそう言うだろう。
なまえ先輩は、パーン中隊長の笛の音の意図がまっっったく読めない人である。



食堂で一人暗い影を背負っているなまえ先輩を見つけて、俺は極めて明るく正面に座る。「ここいいですか」と笑顔で言うと「ああ、ごめん退くから」となまえさんはトレイを持ち上げてどこかへ行こうとしたちょっとちょっと待て待て待て。

「ど、どうしてそうなるんですか。一緒に食べましょうよ」
「ああ、いいの? ごめんねこんな雑魚女と……」
「いやいやいや、なんでそう自分を卑下するんですか。誰より綺麗だし強いですよ」
「こうやって今年の新入隊員にまで気を使われて」
「本心! 本心だから!」

こんなに盛大な告白があるだろうか。なまえ先輩は「とは言えお世辞とわかっていても嬉しい言葉はあるな」とゆっくりとパンを齧っていた。それ以降は無言であった。なまえさんからこちらに話しかけてくるような気配はない。

「あの」
「ん?」
「何か話ませんか? 俺、なまえ先輩の話が聞きたいです」
「私の話? 私が如何にパーン中隊長の言ってることがわからな……いや、言ってねえんだけどさふざけんなよ……もうやっぱり私は第四としてはやっていけない……他の隊の隊長とか中隊長って全員標準語喋るんでしょ?」
「やめてくださいよ。俺は先輩のこと大好きなんですから。いなくならないでください」
「……オグンくん本当に優しいね」
「そうです。優しい俺がいるのは第四だけですよ」
「それは……悩ましいな……」

第四でこれを知らない人間はいないのだが、つまり俺は、なまえ先輩のことが好きで好きで堪らない。あ、いや、知らない人間も一人いる。

「オグンくんが慰めにきてくれなくなったら他の隊に行こう」

そうしよう、と暗くも呑気にコーヒーを飲み干すなまえさんは、俺の気持ちに気付いていない。火鱗が遠くで溜息を吐く音が聞こえた。


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20200704
リクエストありがとうございました!たねさんから『オグンくんが自信なさめのヒロインを口説く話』です!

 

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