15万打リクエスト(26)


「それはなに?」

と聞くと、「あー?」とこちらを確認した後に、何をやっているのか説明してくれた。大抵は意味がわからないんだけれど、全部しっかり聞き終えて「ふうん」と心ばかりの聞いていましたよの合図をする。理解できていないことは、きっと彼が一番わかっているのだろう。コハクちゃんが連れて来たこの千空という男の子は不思議な子だ。時々簡単なこと「それ持ってろ」とか「あれ取って来い」とか本当に簡単なことを手伝う時があるのだが、その度に彼はぐちゃぐちゃと私の頭を撫でる。私をスイカちゃんか何かと勘違いしてはいないか。

「今日のはなにしてるの」

また別の日に聞いてみると、やはりいつもの調子でこちらを確認した後に教えてくれる。コハクちゃんには「よく聞いていられるな」と感心されたが、聞いている分にはいくらでも聞いていられる気がする。私はやっぱり「ふうん」と最後に言って、自分の仕事に戻る。

「ねえ、それって」

さらに別の日、千空くんは私の気配に気付いて先に「あー、これはな」と私が言い切る前に説明をはじめた。全く面倒そうではないのは話すことが好きなのか、話しながら考えをまとめているからなのか。私はやっぱりそれが何時間に及ぼうともじっと聞いてわかるところもわからないところもそのままにしている。彼はきっとそういうのが苦手なんじゃないかと思った。

「よう」

ある日のことだった。千空くんは洗濯ものを干す私に声をかけた。「こんにちは」私は驚いて他人みたいな挨拶をしてしまった。おかしかっただろうか、と私は気になったが千空くんは気にならなかったようで、桶から洗濯物を取り出し乾すのを手伝ってくれた。ほわりと胸が温かくなって不思議な気持ちになった。けれど。

「こんなこと、誰でもできるよ。千空くんは千空くんにしかできないことを進めた方がいいんじゃないの?」
「ま、それは正論で、おありがてえ気使いだけどな……。たまにはいいだろ。お前だって俺のところに息抜きに来てんだろうが」

そうだっただろうか。私は考えてそれもそうか、と納得した。洗濯が息抜きになるかどうかは些か謎だが、彼がそうだというなら、そうなのだろう。

「……ありがとう」
「どういたしましてだ。この後来るだろ」
「うん」

私が毎日飽きもせず千空くんのところに行くのは、彼の声が聴きたい一心である。ということに私が気付くには、まだまだ時間がかかるのだった。


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20200704:
リクエストありがとうございました!あづまさんから『千空と石神村の女の子』でした!

 

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