10000hitありがとうございます!/サイタマ


流石は最強のヒーロー。
私など指一本で押さえられて、頭がぴくりとも動かない。
そのやたらと眩しい頭がやけに遠い。

「サイタマさん」
「おう」
「お願いがあります」
「うん」
「離してください」
「それはちょっとな」
「そして私にちゅーさせて下さいよ」
「うーん」
「なんですか。いいじゃないですか。はっ、もしかして、なんかこの世の者とは思えない体臭がするとかそんなんですか? やばいなあそれはショックで死にそう」
「そんなんじゃないけど」
「それならよかった」

よかったけれど。
尚もぎりぃと押さえつけられる頭。勝てる気がしない。
サイタマさんの家に遊びにくるなり飛びついたらこの有様だ。
泣きそう。
サイタマさんは片手で器用に漫画を読んでる。
漫画になりたい。

「それならよかったんですけど、ところでこれってもしかして拒否されてますか?」
「拒否ってほど力入れてねーよ」
「いやあ、頭ピクリとも動きませんよ。しかも床みしみし言ってるし、指一本でこの力とは恐れ入りました。流石は私のサイタマさんですよ。かっこいい」
「褒めてもだめだぞ」
「うーん。なかなか難しいんですね、サイタマさん」
「難しいとかじゃなくてさ。わかんねーかなー」
「わかりませんねえ。わかるのは、私は是非サイタマさんにちゅーしたいということと、拒否される理由がわからないのは寂しいということくらいですか」
「……」

私はこうもサイタマさんが好きなのだけれど。
つまり恋人になれて喜んでいたのは私だけということなのかも知れない。
世の中そうそううまくはいかないものだなあ。
でも、この指先っていうのは加減してくれているんだろうなあ。
まあ、加減されなければ私はあっという間に死ぬのだろうけれど。
それにしたってそれはあまりにも極端で、無理にこの状況でも幸福を感じようともがいた末の苦しい理論だ。

「サイタマさあん」
「ん?」
「どーしても」
「うん」
「どうっっっっしても、だめですか」
「だめだ」
「……」

うーん。
なんだかやはり、これは。
悲しい、なあ。
理由が今漫画読んでるから、とかでも大変悲しい。
どうしようか。
どうしても構ってもらいたいのだけれど。
だめなのかあ。
それならばどうしようもないのかも知れない。
どうしようもない、のかもしれないけれど。
それで引き下げれるのならこんな面倒なことになっていない。
こんな面倒な気持ちを抱えていない。
例えばさっと引き下がって出直すことができたのなら、それはイイ女なのだろうか。

「サイタマさん……」
「ん?」
「名前を呼んでもらえたりしませんか」
「んー……」
「…………」
「なまえ?」
「はい、そうです、なまえです。貴方のなまえですよ」
「……笑ってる?」
「名前を呼んでもらえるのは、嬉しいですよ」
「あのさ」
「はい」
「もしかして、泣いてる?」
「ないてませんよう」

まあ、目はやけに熱いから、きっと涙くらい滲んでいたって不思議ではないけれど。
そんなことを考えていると目がパチリと合う。
あ、久しぶりに目が合った。
うれしい。
でも、サイタマさんはたいへん困った顔をしている。

「………」
「……どうかしましたか?」
「どうかしましたかってお前なあ」
「そんなに貴方を、困らせていますか?」
「困ってるっていうか、そうじゃねえよ……」

久しぶりの二人きりに、浮かれすぎたのがいけなかったのかも。
じ、と押さえつけられたまま見上げると、ついにサイタマさんは私の頭から指をどかしてくれた。
まだ少し頭が重いけれど、静かに起き上がる。

「……困るとか嫌とかじゃなくてだな」

泣いていようが落ち込んでいようが、そんなことは関係がない。
ちゅ、
と、その一瞬でサイタマさんの頬に唇を押し付けて、どうにかこうにかニヤリと笑う。

「この瞬間を待ってましたよ……」

ふふふ、なんて笑ってみせるけど、本当は怖い。
なんか、尋常じゃないくらい拒否されたらどうしたらいいんだろう。
今後の展開が予測できなくて変な汗が浮き出てきたが、ど、どうしたものか。
な、な、なんで無反応なんだろう?
ややや、や、やっぱり、これ、は。
まずい?

「あの、サイタマさ、」

すみません、そんなに嫌だとは流石に(可能性は考えてたけど)思いもせず、なんて、謝ろうと思っていたが、私の頭はまた床に押し付けられる。
でも、さっきより痛くないのは、布団の上だからみたいだ。
ふとん?

「しょーがねーよこれは」
「へ?」

うんうん、と一人頷くサイタマさん。

「あ、の?」
「だから言ったのによー、あんな可愛い顔されたらどーしよーもねーよな」
「???」

何の展開だこれ。

「かわいすぎるんだよ、お前は」

必死で、必死で次紡ぐべき言葉を探していたけれど、どうやらそんな必要はないらしかった。
それだけわかればいい。
視界にサイタマさんがいて、こっちを見てくれていて、余裕がなさそうに言い訳がましくそんなことを言うこの人を見ていれば、そんなことはいい。
勇気を出したかいがあるというものだ。

「こら、なに笑ってんだ」

こんなことで吹き飛ぶ心配なら、はじめから感じなければいいのになあ。
私はこれからサイタマさんがどう愛してくれるかわからないけれど、それでも嬉しくて、とりあえず抱きついておいた。
サイタマさんは、ゆるりと抱きしめ返してくれた。

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20160507:以下コメント返信
リクエストありがとうございました、管理人のあさりです。
突然更新が不定期になりすみません。大変お待たせいたしました。
リクエストいただいていた、サイタマさんでちゅー(ほっぺ)したがる女の子を書かせていただきました。
あまり、積極的というか、元気で明るいの権化のような女の子は書くことが少ないので大変新鮮でした。
ありがとうございました。
この度は本当に遅れてしまい申し訳ありませんでした。
もしよろしければ、またよろしくお願い致します。
それでは、コメント、リクエストありがとうございました。


 

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