15万打リクエスト(25)


指先が触れて、彼女はびくりと飛び跳ねていた。「ぴゃ」と言うような小さい悲鳴も聞こえた気がした。書類を渡された時の話である。その後、必要な報告だけはしっかりしてから、逃げるように大隊長室から出て行った。なまえは大事な第八の隊員だが、俺の彼女でもある。もう一度言う。俺の、彼女でもある。



例えば、男慣れしていないせいで失う命はないだろう。焔ビトとの戦闘になれば関係ないし、そんなことを気にするような彼女でもない。つまり、誰にも迷惑をかけないのだ。だから「慣れてない? 気にしなくていいさ。なまえのペースで行こう」と俺は言った。大人の余裕をしっかり見せつけ肩を叩いた。「ありがとうございます、これできっとなんとか生きられる……」となまえは涙ながらに俺に感謝した。感謝していた。だから今更、もうちょっとペースあがらないか、などとは聞けない。
聞けないが、恋人と二人きりになりたい時は俺だってある。夜にこっそりなまえの部屋を訪ね、あたたかい飲み物と一緒に部屋に入れて貰った。なまえは筋トレをしていたらしく、少し汗をかいていた。「すいません」と謝っていたが、好感度があがるだけだ。何を謝られることがあろうか。

「むしろ俺ほうこそ、悪かったな」
「い、いえ、そんな。私は嬉しいです」
「んん」

体を動かしていたから上気した頬。汗をかいていたからしっとりとした髪や肌。そのままほわりと微笑まれたらいろいろとまずいのだけれど、俺はいつだかの約束の通り襲い掛かるような真似はせずじっと耐えた。

「ちょっと、そっちに寄ってもいいか」
「あ、はい。もちろん」

す、と横にずれると、なまえも微かに横にずれた。

「傷付くんだが?」
「あ、あ、すいません、つい反射でっ」

遂に壁まで追いつめて、ぴたりと隣に座る。なまえは真っ赤になって目を回していた。大人げないことをしている自覚はある。しかし、一回ずつくらいこういう日もないと一向に慣れないだろうとも思う。「よっ」となまえを抱きしめると「ひぃ」と悲鳴が聞こえた。流石に申し訳なくなってくる。

「悪いな」
「えっ」

申し訳ないが、普段頑張っている俺にご褒美があってもいいはずだ。ぎゅう、と強く抱きしめた後腕を解いて額にキスをした。見事に耳まで真っ赤で、今にも泣き出しそうなくらい目が潤んでいる。……かわいいけれど、やっぱり悪いことをしたかもしれない。が、嫌がられてはいないわけで。ここで引き下がってはいけないと俺の消防官としての勘が言っている。

「少し寂しくなってな、たまにでいいんだが、その、今日みたいなことしてもいいか?」

なまえからは空気の抜けるような音が始終している気がする。俺の言ったことを「あ」「う」と言いながら咀嚼し、その内こくりと頷いた。「そうか。よかった」本当によかった。
ここまでできればあとは時間の問題だろう。


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20200704:
リクエストありがとうございました!柚子さんから『桜備大隊長と初心な彼女のお話』でした〜!

 

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