15万打リクエスト(19)


「オムライスが食べたい。食べに行ってくる」というなまえを、紅丸は腕を掴んで引き留めた。何故今。丁度紅丸が昼飯でも一緒にどうかと誘おうとした時に、まるで避けるみたいに走り去られなければならないのか。色々なことが起こりすぎて事前に用意していた誘い文句を忘れた。じっとなまえを睨み付けていると、なまえは何を思ったか「紅もいく?」と簡単に言う。行くに決まっている。



浅草からあまり離れるのも、となまえの気使いにより浅草の外、すぐ傍の洋食屋に入った。なまえは食べたいものが決まっていたので、オムライスのページで数種類のオムライスを前に「ホワイトソース、デミグラスソース、あ、待ってハヤシライスソース…? いやいや、罪深い選択肢だねオムハヤシってのは……」などと一人で盛り上がっている。

「紅はなににする?」
「あ? お前と一緒でいい」
「オッケー! すいませーん! この一番人気の自家製ケチャップのオムライスと、おばあちゃん特製ハヤシライスソースのオムライス一つずつお願いします!」

勝手に選びやがった。恐らく最後までその二つで悩んでいたのだろう。まあ元々選択権を投げたようなものだし別にいいかと息を吐く。テーブルを挟んで反対側のなまえはうきうきした様子でかなり上機嫌だ。楽しそうななまえを正面から見る機会はそうそうないので、自然と紅丸の肩から力が抜けた。

「紅、ケチャップの方ね。で、半分ずつでシェアしよう」

一口とかではないらしい。やや気になるが文句はない「好きにすりゃいいだろ」と言うのだが、言い切る前に「やったー」と、今度はメニューのデザート一覧を見始めた。

「紅、デザートは?」
「甘いやつだろ。いらねェよ」
「ふうん。で、デザートは?」
「……」

なにがどうあっても半分ずつにしようという腹らしい。「甘くねェやつ」と言うとなまえは「甘くないやつかあ……」と悩んでいる。そうこうしている間に料理が運ばれてきて、なまえはデザートのことは忘れることにしたようだ。くるくると感情の標的が変わるので紅丸は必死にその先にあるものを見ようとしていた。いつも、あまりうまくいかないが、そんなことは関係なく、なまえは楽しそうであった。

「んふふ、美味しい。このお店はじめて来たけど覚えておこう」
「一人で来るのか。寂しい奴だな」
「あははは。私一人で来る奴イコール寂しい奴って方程式成り立つ奴キラーイ」

顔は笑っているが、ひゅ、と背筋が凍るような感覚がして紅丸はきゅっと口を閉じた。

「まあでも、ご飯はね、誰かと来ないとシェアはできないからなあ」

なまえにとっては今紅丸から聞いた言葉も、自分で言った言葉もただの世間話で、大して重みを持っていないようだった。既に目の前のオムライスに夢中である。
だというのに、自分ばかりがなまえの一言をこんなに気にしている。はあ、とため息を吐くと、なまえはオムライスに向けているのと同じ笑顔で言う。

「はい、紅丸。こっちも食べてみてよ」
「……」

皿ごと渡されて、無言でそれをスプーンで崩す。
ちょっぴり苦いと感じたが、目の前のなまえが楽しそうなのを確認すると、どうでもよくなった。

「次も誘えよ」
「んー紅は甘いもの駄目だからなあ」
「あァ?」

どうしてこんなにも振り回されなければならいのか。その答えは、全部なまえが持っている。「それでも誘えよ」紅丸には、そう言ってオムライスを食べ進めるのが精一杯であった。
誘って貰えるかどうかは、きっとなまえの気分次第だ。


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20200704:
リクエストありがとうござました!赤い狐さんで『紅丸と洋食を食べる話』でした!!!

 

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