15万打リクエスト(17)


カシャ、と音がした気がして目を開けた。
私としたことが、本を読みながらそのまま寝落ちしていたらしい。昼の休憩時間はまだ残っているのだろうか。
しまったなあ。さして焦りもせずにそう思いながら横を見ると、冷や汗をだらだら流しながらカメラを構えているリヒトさんと目が合った。
構えて、こちらに向けられているカメラ。
私を起こした、カシャ、という音。

「ああ、シャッター音」

私が声を出すと、リヒトさんは白衣が汚れることも気にせずベンチに座る私の前で正座しその大きな体を丸めた。これは、原国式の謝り方で土下座とかなんとか言った気がする。「ごめんなさいッ!」と若干裏返った必死な声が地面から聞こえた。

「いや別に、えっと、私がやべーやつみたいになるので顔上げてもらって……」
「申し訳ないッ!」

声をかけても聞こえているやらいないやら、ただ周囲に人がいないことだけが救いだった。この間に時間を確認すると、まだ昼休み終了まで十分程時間があった。安心してリヒトさんの肩を叩く。

「あの、別に怒ってないですし」
「嘘だ、絶対に引かれた……女の子の寝顔を無断で撮影するような男なんだって幻滅された……百五十パーセント嫌われた……どうしようもない変態野郎だって思ってるだろう……駄目だ……僕はもうやっていけない……」
「いや、なら撮らなきゃよかったじゃないですか」
「だって写真欲しかったんだもん!」

だもん、と言われても。私はこの件について一体どう思えばいいのだろうか。わからない。

「写真、どうするんですか? 私のなんて売れないと思いますけど」
「売らないよ!? それどころか他の誰にも見せない!」
「はあ……、それなら、いいんじゃないですか」
「えっ」

リヒトさんはがば、と顔を上げた。忙しい人だ。

「え? だって、私はここで阿呆みたいに寝てたわけで、しょうがないんじゃないですか。私だって後から見せてからかおうかなって知り合いの寝顔の写真を撮ることくらいあるかもしれないし。誰にも見せないなら、リヒトさんに見られたことと写真を撮られたことは同じことですよね?」

間違ったことを言っているだろうか。「いや、でも、それは」リヒトさんはなにやらもごもごとした後に目を輝かせてカメラを抱きしめながら言った。

「う、嘘……、いいの……?」
「ああ、でも、怒る人はいるかもしれないので、いいことではないかもしれませんね。特に女の子には」

私は別に、起きたことは仕方がないと思って割り切りますけど、と言うと、リヒトさんは頭を抱えていた。「どういうことなんだろう。僕は許されたのか? なまえの判断基準が全然わからない。僕の好感度は上がりも下がりもしなかったのか? なまえはこれで大丈夫なのか? いっそこの写真悪用して、迂闊なことを言うものじゃないってわかってもらう方が彼女の為なんじゃ…?」

「リヒトさん?」
「あ、ごめんね。ありがとう。じゃあ、遠慮なく引き伸ばして実験室に飾るよ」
「うわっ」

その用途には流石に引くと、リヒトさんは再び頭を下げて、しかし写真を消すとは頑なに言わなかった。


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20200704:
リクエストありがとうございました!あおこさんから『リヒト夢』でしたー!

 

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