15万打リクエスト(16)


お互いの貴重な休みを、お互いに捧げ合う。とりあえず、俺は目の前の私服姿のなまえを見てぴたりと固まってしまった。いつもの消防官然としたきりっとした印象はそのままに、ひらりとした服が女性であることを際立出せている。「おはようございます、桜備大隊長」言ってから、なまえは一人で「いや、プライベートですし、桜備さん、かな」とはにかみながら言い直した。秋樽さん、でもいいのだが。

「それはいいんだが、なまえ、その服」
「あっ、好みじゃなかった?」
「いや、すごくいいと思ってな。なんなんだろうな。なまえに着られる為にあるんじゃないか……?」

なまえに喜んでもらえる感想が口から出れば良かったのだが、ただの本音しか言葉にならなかった。なまえも「そ、うですか」と口元を押さえて困っている。「それならよかった」女性を褒めるというのも難しい話だ。

「桜備さん、今日はどこに?」
「おう。まかせてくれ。デートプランはばっちりだ!」
「……そう、そうだね、デート」

デートにでも行くか、の返事で「いいよ」だったのだから、これはデートで間違いないはずだった。しかし、自分で宣言したり、なまえから「デート」と言われてしまうとどうしても照れる。なまえの頬がいつもより赤い。「今日は暑いな!?」と言うと「本当に」となまえが顔を俯かせながら言った。

「じゃあ行くか!?」
「うん」

歩き出すと、いつもより近くになまえを感じる。普段と違うのは、なまえも俺も緊張しきっているということだ。何か気の利いた話題はないものか。気温の話はさっきした。ならば次は天気の話か。考えていると、目の前をお手本のようなカップルが通り過ぎて行った。いっそもっと近づいたら逆に気取らず話ができるのかもしれない。

「折角のデートだしな。手でも繋ぐか!?」
「……」

俺は何を言っているんだ。高速で上下左右に暴れ回る思考と言動に、俺自身が振り回されている。断られたらこれからどうするんだ。一日気まずいでしょうが! なまえも余計黙ってしまったし、ここから挽回などできるのだろうか――、

「うん。いいよ」

なまえの手のひらがするりと俺の手のひらと合わさった。
思わず体が震えてしまうが、なまえの夏の花みたいな笑顔を見てしまったら、小細工は必要ないなと肩から力が抜けていく。いろいろ考えてみたが、結局これだけは変わらない。「なあ、なまえ聞いてくれるか」俺は。お前のことが。


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20200704:
リクエストありがとうございました!遠さまから『秋樽桜備夢「いいよ」の続き、実際にデートに行った二人のお話』でしたー!

 

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