10000hitありがとうございます!/無免ライダー


気付くといつも、彼は道路を走る、車を背にして笑っている。
私は歩道の内側を歩いている。
今日もだった。
繋がれた手は暖かく、どうして、こんなに落ち着くのかわからない。
私がずっと見上げていると、首を傾げて言う。

「? どうかしたかい?」
「ううん。何でもないんです」
「そう? それなら、話の続きだけど―」

今だって、彼はかなり話に熱中していたように見えたけれど、きちんと私の顔も見えていたようで、さらりとどうかしたのかと聞いた。
まあ、それは、聞くかもしれないけれど、聞かないことだってできたはずだ。
優しい声が、ずっと、聞こえている。
そして、少し休憩しようかと喫茶店に入る時も、なんてことない様子で扉を開けて待っている。

「どうぞ?」
「ありがとうございます」

わかる。
それも、やろうと思えばみんなできるし、気合いが入っている時なんかは私だってやる。
ただ、こんなに自然にできるかどうかはわからなかった。

「ケーキがとてもおいしいらしいよ」
「そうなんですか……、なら、うーん、イチゴタルトにします」
「じゃあ、僕もそれにしてみようかな」

ヒーロー活動に忙しい人だ。
それでも、今日はこうして二人でいて、いざ出かけるとなればそれなりに調べたりしてくれているらしい。約束をしていたら、雨が降っていようが、なにをしようが会ってくれる。
台風の時に家に来てくれたこともある。大した事無いよ、なんて笑っていて、私も、そこまでしなくても、と思いたかったけれど、無理だった。
とんでもなく嬉しくて、嬉しかった。
ケーキも、以前食べたいなあとぼやいたのを覚えていてくれたらしい。
イチゴタルトはおいしくて、甘酸っぱい。
おいしい以外にも特別ななにかを感じた気がしたけれど、言葉にするのは難しい。

「おいしかったかい?」
「はい、とても」
「よかった! それなら、また来ようか」

一つ頷く。
また。
その言葉がどれほど嬉しいか、わかって言っているのだろうか。
わかっているのだとしたら、とんだ策士だと思う。無免ライダーが人気なのは、つまりこういう心根から来るいろんなものをみんな感じ取っているのだろう。
誰にでも優しい、か。
複雑ではあるが、やっぱりそれも、誰でもできることではない。
それに、優しい、ということと流されやすいということは違う。
優しくて流されやすい、だと気が気ではないけれど、流される、とは縁遠いところにこの人はいる。
だから、私はある程度安心して見守っていられる。
まあ、違う意味で全然安心できないけど。
そうしてまた、私は道路の内側を歩いていて、ちらりと彼の横顔を盗み見る。
おかしく、なりそうだ。
胸が苦しくて、苦しくなくて、信じられないくらいに甘くてくらくらとして。
ああ。
本当に本当に、この人がすきだ。
好き。
どうしたら、いいんだろう。
このどうしようもなく愛おしい気持ちを、うまく伝えるには。
私は、町の人たちの為に命を捨てられないけれど、きっと、この人の為なら考える時間なんてなくてもいいんだろう。たぶん、流れる様に、私もそれが当然であるように、なにもかもを放り投げてー。

「なまえ」

ぱちり、と気付くと、彼もこちらを見ていて。

「大丈夫かい?」
「え、はい。大丈夫ですよ。どうしてですか?」
「いや、今日はなんだか、ぼうっとしているような気がしたから……」
「ああ、すいません。そうだったかもしれませんね」

心配そうに、こちらを見る。
眼鏡の奥の優しい目に、なんだかどうしようもない気持ちになる。
信じられないくらいに良い人だ。
こんな人に、私は会った事が無い。
しかも、この人は、私を選んでくれたのだ。
私がいいのだと、言ってくれた。
全てが夢のようで、この人の隣にいると、いつも少しふわふわする。

「ずっと、貴方のことを考えていて」
「えっ」
「いえ、いつも、と言うより会った時から思っていたんですが。本当にすごい人だなあと思って。世間一般でしたほうがいいこと、っていうか、当然したほうがいいことを当然のようにするところとか。でも、本当にすごいのは、貴方は、できなくてもそれをやるので、本当に、信念のあるかっこいいひとだと、しかも優しくて、こんな人にここまでしてもらって、幸せでしかないなあと、思っていたところで」

ここまで言って、彼を見上げる。
ひどく、顔が赤い。
決して、私はこのデートがつまらなくてぼうっとしていたわけではないのだと、安心してもらおうと選んだ言葉だったけれど、彼の顔を見ていると、どうやら少し、やりすぎた? ようだ。

「あの、僕も、そんな風に言ってもらえることって、ないから、なんだろうね……、嬉しいよ」
「実は引いていますか」
「そう見える?」
「いいえ」

言うと、ふっと彼は笑った。
なんていうか。
だめだ、これは。

「僕も、幸せだよ」

空いているほうの手も、彼にのばす。
そうして、のど元まで出かかっている言葉をぐっと堪える。
こんなことまで言ったら、それこそドン引きだ。
ただでさえ、あまりかわいくない性格は自覚している。

「」

こんなこと。

「ん?」
「…………きっと、これから行く所とか、いろいろ決まってたかと思うんですけど、今、すごく、どこか二人になれる場所で、ゆっくりしたい、です」
「あ……、え、っと、それは……」

ぐちゃぐちゃにしてほしいなんて言えるはずもない。
言ったも同然だけれど。
おそるおそる目を合わせると、彼は「実は、」と恥ずかしそうに笑う。

「このあと、少しいい部屋をとってたりして……」

もう、目が回りそうだ。
そのまま倒れて死んでしまったって、きっと後悔はないのだろう。

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20160428:以下コメント返信
→向日葵さま!
リクエストありがとうございました!
無免ライダーでデートの話ということでこんな感じに出来上がりました。
無免ライダーとサイタマさんはちょっと似てて、当たり前のことを当たり前にやるのは二人共おなじとして、行き過ぎているのがサイタマさんで、ちょっと届かないのが無免ライダーかなというようなことを考えていたらこのように……。
楽しんでいただけたらなと願うばかりです。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
リクエスト、コメント本当にありがとうございました。
それでは、失礼致します。



 

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