世界で一番恐ろしいイベント/ぷりぷりプリズナー


牢獄の壁に穴がある。
それは、あるヒーローが蹴り1発で空けたものだった。
それは、ここの監獄のボスではなく。
もっと小さく華奢な少女の手によるもの。
正確には、足によるものだった。
そんな少女は、ボスこと、ヒーロー、ぷりぷりプリズナーと知り合いらしく、時折ふらりと現れる。
何をするのかと思えば、ボスと適当に話をしては帰っていく。
つまり、遊びに来ているらしかった。
ボスもそうだが、ここをなんだと思っているのだろう。

「どう思う? バレンタインって世にも恐ろしいイベントについてだよ」
「いきなり遊びに来たと思ったらそんなことか」
「そんなことだよ、私最近こっそりOLしてるのは知ってるよね」
「ああ、こっそりというか、ガッツリだと思うがな」
「でさ。ていうか、こんなとこだけどチョコとか用意してる?」
「それはもちろん。君のぶんもあるぞ、当然義理だが」
「え? ほんとに?? やったね!! 私は用意してないけど」
「構わない」
「いや今度返すわ。気が向いた時に!」
「ああ、それで? いいイベントじゃないか、こうして君も嬉しそうにチョコを受け取るわけだしな」
「それはいいじゃんか、こうして勝手にやってるわけだし、君も私もなんかわざわざチョコよこせとかお返しくれとか言わないわけじゃない」
「必要が無いしな」
「そう、そういうのっていうもんじゃないよね」
「なんだ? 言われたのか?」
「いっそ上司がそんな事言ったらパワハラなんじゃねーかなって思うレベルよね」
「君はまた余計なことを考えて自滅したんだろう?」
「でもさあ、ガン無視するわけにいかなくない?」
「上司だからな」
「正確には先輩なんだけどさ。それにしたってガン無視するわけにはいかないじゃんね?」
「そうだな」
「つまりね?」
「ああ」
「そういうことなんですよ」
「結局どうしたんだ?」
「32円のそのへんに売ってるカロリーの塊3積みくらいで許してもらえないかなと思ってね」
「それはそれで微妙じゃないか? 世話になっているんだろう?」
「世話になってる礼ならバレンタインになんかしない。変にホワイトデーとか作るもんだから返ってくる可能性が高いでしょーよ」
「それもそうか」
「それに、まだ私就業しはじめて2ヶ月ですよ、冗談にしたって正気かよって話でね」
「そうだったか?」
「うん。それでその人にだけ用意するのもあれじゃん? だから、10個買ってきた」
「そ、そうか」
「うん」
「ん? 俺にないということは全部はけたのか?」
「いや。君にあげるならもうちょっといいの用意するし」
「きっぱりしているな……」
「で、最悪5積みでも行けると思って、完璧な布陣だと思ったんだけど」
「ああ」
「一個で割と喜ばれて私の方がダメージ食らったんだけどどうしてくれよう」
「いい子じゃないか、残りは君が食べたのか?」
「食べるかい。一口噛む事に罪悪感が溶けだすわ……ムカついたから帰りに同じチームの人たちにコンビニの袋ごと渡してきた」
「あと大して親しくもない最近知り合ったばかりの人に遠まわしに同じ事言われてイラついたから話しに来た。ごめんね!!!!」
「そんな目を見開いて謝られてもな……、案外モテるのか」
「全部冗談に決まってらい! どう思う!!? 用意するのだっていろいろ考えるんだぞ!!! もうほんと敵!!! こちとら平和に過ごしたいんじゃい! やだよー、ホワイトデーが怖いよー、なんかいいお返しだったら死のう。ブラックサンダーにはブラックサンダーで返すのが礼儀だろうが」
「……」
「つまんない話してごめんね!!?」
「いや、君はいつでも楽しそうだな」
「君も大概だと思うよ私は」
「それで?」
「うん? それだけだけど? ただの愚痴ですけど、特に手土産もなく」
「ここからが本番だろう?」
「なんで?」
「本命の話を聞かせてくれないのか?」
「あ? そんな高尚なのいたらこんなくだらないことで悩むはずなかろうよ」
「それもそうか……」
「そうともよ、ていうかほんとに何なんだって話なんだよね。くれなんて簡単に言うけど、そんなに? わざわざ言うほど? 実はいらないんじゃないの? ていうかそんな話だったらさあ。逆にくれたらいいんじゃないの? そしたらお返しあげますよもちろん。なんでそのへんの責任押し付けるの? 吐かす?」
「そんな君にはこれもつけよう」
「ん? おー! やったー!!! このチョコうまいやつだーーー!!」
「喜んでくれて何よりだ。それより、今度甘いものでも食べに行かないか」
「行こう行こう、ああ、甘いものといえば」

日が暮れるまで、2人は絶えず話し込んでいた。
どうやら、本当にただの親友であるらしい。
そんなにいろいろと話せる友人がいるのはいいことだ。
あんな奴がいたのなら、俺の人生も違っていたのかも。
ふと、そんなふうに思った。


-----
20160304:恋愛要素なくてすいません。
 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -