なんでもできる/サイタマ


「好きだぜ」

俺が言うと、なまえもにこりと笑った。
うん、いい笑顔だ。

「私も、愛しているよ」

そっか、なんて言うけれど。
こんな会話を交わしたけれど、俺となまえは恋人関係と言うわけではない。
いや、俺はそうなりたいんだが、なまえはただ、この世界にある全部を愛していた。
戦う力もなくて、マイペースで身勝手なこいつは本気で人の幸せ、他人の幸せを祈るようなやつだ。
笑ってもらえるなら何でもする。
そんなことを平気で言う、自分勝手な愛に溢れた女だった。
このやりとりは、日課になったが、意味合いが、どうにも違う。
俺が張り切ってした告白も、なまえにとっては違う告白に聞こえたらしく。
目を見開いた後に、こいつは言った。

「ああ、やっぱり! 通りですごく強いと思った!! だから、ヒーローしてるの?」

好きでは弱くて、それならばと思ったのだが、なまえは簡単に言う。

「私は、愛してる」

まあ、戦闘能力はなくて、なにができるでもないんだけどね。
と笑う。
それもありかと思ったが、どうにも不思議で首をかしげていると、なまえはそっと歌を歌った。
穏やかで澄んでいて、全ての炎を散らしてしまうような。そんな声。
通りかかるいろんなやつがこっちをみるけど、それでいいらしい。
あっという間に人が集まって、歌い終わると、なまえは恭しく礼をして、笑った。
種類が全く違う。
俺はそれを独り占めしたいと思うけど、きっとなまえは違うのだろう。

「世界を救うとかそういうのはないけど、あーやって、笑ってもらえるのが嬉しくてね」

俺はちっとも笑えなかったが。
なにか言う気にもなれなかった。
確かに、悪くはない。
悪くはないが、良くもない。
どうにかなまえの家に遊びにこられるくらい仲良くはなったが、ここからどうしたものかなあと言う所だ。
もっとわかりやすく、間違いようがない言葉で。
なまえの家のリビングでくつろぎながら、考える。
なまえは座椅子に座ってテレビを見ている。
こうしてだらだらとしている時間は好きだ。

「なあ」
「ん?」
「なまえってさ、恋人とかに興味ねえの? 俺を平気で家に上げるし」
「あー、あんまりうまくいかないんだよね。でも、楽しいから全然今のままでいいかなあ」
「へー」
「うん。サイタマは?」

あ。
悪くない流れかも知れない。

「俺達なら、うまくいくと思わねーか?」
「ん? そうかもね」
「まじで?」
「でも、まあ、いいかなあ。恋人は」

うぐ。
そう言われてしまうと難しい。
なまえは笑っていた。

「あー…………そう?」
「うん」
「あの、なんで?」
「なんでって言っても……、サイタマも彼女いないでしょう」
「う、うるせー、今俺の話はいいんだよ!」
「ええ?」
「で!?」
「あんまりそういう気分にならないだけ」
「婚期逃すぞ」
「うーん、別にいい」
「……なんか不毛な気がして来たなこの会話」
「だって今、楽しいからなあ」

俺は大きく息を吐く。
ついでに肩も落とす。
仲はよくなっている、けれど、どうやらその土俵にも立てていないらしかった。
それに、この様子だと、例え俺のことを好きになってくれたとしても、断られるかも知れない。
博愛主義のこいつの唯一になるには、まだまだ前途多難であるようだ。
嫌みでなく強がりでなく、「楽しい」と言う横顔は確かに楽しそうだった。
それを壊すのも忍びない。
例えば無理矢理にでも迫れば一応考えてくれるのだろうが、たぶん、平気な顔をして次の日から俺の前から姿を消す、そんな気がする。
どこまでいっても身勝手で、自分に正直な奴だった。
自分のやっていることが自己満足だとわかっている、いい意味でも悪い意味でも潔い。

「じゃあ、なんか叶えてほしいこととかさ」
「あー、それはいろいろあるよ。時間とか才能とか」
「ふーん。他には?」
「ええー、うーん、それじゃあ」

じ、となまえを見ると、一瞬だけ、真面目な顔をしたなまえと目が合った。
はじめてみる表情だった気がする。
笑っているところしか、見た事がなかった。
あんな顔もするのか。
人間ではないんじゃないか、たまにそんなことを思うが、これならきっと、人並みに悔しかったり苦しかったり、寂しかったりもするだろう。
だがやはり、普通ではないのだ。
この、なまえという奴は。

「神様になりたいね」

なんだそれは。

「世界のどの命にも幸せになれって言えるし、それに尽力できる。だから神様になりたい」
「……」
「叶うと思う?」
「……いや、つーか、なんか、やっぱ、お前、すごいわ」
「あはは。嫌だな。私はただの、どこにでもいる、頭のおかしい変な奴だよ」
「そんなこと、言うなって」
「うん? さすがにひかれると思って言ったけど、サイタマもやっぱり変な人だね」
「おう。俺以外には言わなくていいぞ」
「んー、まあ、言う予定もないよ」
「あと、それ、俺が、」
「ん?」

俺が叶えてやる。
その言葉は飲み込んだ。
なんでもやってやりたいけど、それはさすがにわからない。
けれど、叶えてやりたい。
そうしたら、一生俺とは恋愛できないのかも知れないけど。
なまえは顔を上げて、やっぱり笑っていた。
へらり、と幸せそうな。
悩みのなさそうな笑顔だ。

「いや、なんでもない。がんばれよ」
「はははは! その上応援されたのなんてはじめてだよ」

うん。
叶えてやろう。
神様になれる、かどうかはわからないが。
こいつがすること全てを応援することにしよう。
できることはなんでもやろう。
なまえが通る道に邪魔なものは取り除いておいて、こいつがずっとこうして夢を見ていられるように。
ほわりと和む、そんな笑顔をいろんな奴に向けてもいい。
いろんな奴に歌を歌って幸せをわけてもいい。
けれど、俺がなまえの傍に居る。
なまえがずっと笑っていられる様に。
なまえが怖い思いをしないように。
なまえがふと周りを見た時に寂しくない様に。
なまえが幸せであるように。

「愛してる」

これは俺の言葉。
なまえは一瞬きょとんとした後に、ひどく嬉しそうに「わかる?」と言った。
ああ、そうか。
わかった。
たった今、理解した。
伝わっていないんじゃない。
なまえにとっては、どっちでもいいんだ。
友達の好きでも恋愛の好きでも。
そんなのはどっちでも同じことで、こいつはただ、俺を含めた相対した全ての人間の幸せを祈っているのだ。
最高に身勝手で、やっぱりどうにも、俺はこいつが好きなのだ。
なんでもしてやりたい。
この、なまえという奴の我がままや無理をぜんぶきいてやりたい。
ぼろぼろになるまで利用されてみたい。
それでもきっと、綺麗に笑うなまえが見たい。
こんなに胸が高鳴ったのは、随分と久しぶりだった。
そこに、なにか扉がある。
ああ、俺は。

「私も、愛してる」

こいつに全部、奪ってほしい。


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20160302:イメージと違うと言われてもすいませんとしか……。
 
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