話になっていない弟子/ジェノス


あのサイボーグはおかしい。
私はサイタマさんの友人だが、どうにも、最近あの弟子がどうにも苦手で遊びに行っていない。
し、あまりくるなと言ってある。
理由はいろいろあるが、深く話すのは面倒くさい。
こんなことを言っているから、こんなことになることもわかっている。逃げられやしないのだ。よくわからないことから逃げてもよくわからないことになる。
つまり私はあのサイボーグと町中でばったり会ってしまった。

「なまえ!」

何故名前を呼ぶ。
しかも呼び捨てにする。
私と君はそんなに親しくなった覚えは無い。
見ないフリをしようとしていたが、そんなことはおかまいなしにサイボーグはこちらへ来て、じっと私を見る。仕方が無いので、挨拶をする。

「こんにちは……」
「何を暢気に挨拶している」
「え」
「今まで何をしていた?」
「え、いや。普通に、学校……」
「学校がどうした」
「ん?」
「先生が寂しがっているんだぞ!」
「いや、たぶん、そうでもないと思うよ」

そうでもないわけあるか! と怒られる。
わからない。
苦手と言うか、わからないのだ。
このサイボーグが何を言っているのか、私にはさっぱり。
どうして私は怒られていて、どうしてサイボーグは怒っているのか。
多分通訳がいる。
私の言葉も、わかってもらえている気がしない。

「で?」
「うん?」
「なにもなかったんだな?」
「う、うん? まあ、学校以外は特に」
「なら何故先生の家に来ないんだ」
「いや、それはさ」

お前のことが苦手だからだ。
とは流石に言えない。

「あ、あれだ、レポートが忙しくて」
「SNSで暇だと呟いているのを見たが?」
「いやいや。暇だといいなあって話でしょきっと。その前になんで私のアカウントを、」
「そんなことはどうでもいい!」
「はあ、そう?」

ここまでくるととうとう私は首をかしげるしかない。

「これからの予定は」
「え、あ、んー、と、バイト」
「ここには今から暇だと書いてあるが」
「あああだからなんでアカウント、」
「荷物を寄越せ」
「な、なんで?」
「いいから寄越せ」
「いや、よくないよね」
「行くぞ」
「どこに」
「先生のところだ」
「どうして」

答えない。
なんなんだこのサイボーグ。

「ねえ」
「……なんだ」
「あそこ、サイタマさん」
「なに!!?」

くるり、と振り返って探している間に私は全力で逃げた。
付き合いきれん。
が、ただの女子大生がS級ヒーローをまけるはずもない。
期待したのは、逃げたという事実に気付いて見逃してくれないかということ。
そう、私は逃げたのだ。
あのサイボーグから。
何をいっているのか何を伝えたいのかわからないサイボーグから。
いや、伝えたい事はぼんやりわかる。つまり、サイタマさんが暇そうだから遊びにいってやれやゴラアということなんだろうが、私が行こうが行くまいがサイタマさんは暇そうなのである。
もう一度言う、行こうが行くまいが、暇そうだ。
暇人が二人集まっても、暇だというくらいしかやることはない。
何の問題があろうか。

「何故逃げた」
「げ」
「なまえ」
「……」
「……」
「あー! もう! はいはい、無駄にお手数おかけしてすいませんって。定期的に行けば良いんだね?」
「…………そうだ」

なんだその間は。
まあいい、ともかく今日はこのまま行く気はない。
何故かと言えば、今日このまま向かう場合、サイタマさんの家までこのサイボーグと一緒だからだ。
それはちょっと苦しい。
言い逃れる手段ならまだある。
残念だが、私は頭がいい。

「夕飯にすごくおいしい野菜のいっぱい入ったグラタンが食べれて、更にデザートに手作りのプリンが出る日があるなら」
「わかった」
「なんて?」
「わかったと言ったんだ」
「なんで?」
「作ってやる」
「いつ?」
「今日だ」
「どうして?」
「お前が言ったんだろう」
「サイタマさん、いいって?」
「……おそらく、許して下さるだろう」
「君さ」
「ジェノスだ」
「………うん。君の名前がどうしたの」
「何故そうなる」
「こっちが聞きたい」

私は頭がいいはずだ。
理解力が足らない可能性をあまり考えたくはないが、いまいち、見えそうで見えないという感じはする。
見てはいけないものである気もする。

「ねえ」
「違う」
「なにが?」
「それがだ」
「それって?」
「さっきも言っただろう」
「さっきって?」
「8.56秒前だ」
「…………悪いけど、8.56秒前なんて言った???」
「バカなのか?」
「ええ? 殺そうかな……」

こんな調子でサイタマさんが探しにくるまで、私は解放されなかった。
サイタマさんはサイボーグに「ドンマイ」なんて笑ったが、言う相手を間違っていないか。
今日は疲れたので考えるのはやめた。

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20160229:くっそ面白い(ごめんって)
 
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