拍手、無音のヒーロー:02


>無音のヒーロー:2

私の世界に音はない。
自分の心音も聞こえない。
声もわからない。
それが私だった。

「」

彼の口元は読みにくい。
あまり表情がかわらなくて、感情の流れもわかりずらい。
その口は、今、何を呼んだのだろう。
呼ばれても気付けないというのは寂しいもので、けれど、呼んでも気付かれないというのも寂しいものだと理解している。
最近友達になった、ジェノスくんは案の定、少し寂しそうにしていた。

「すいません、あの」

すいません、はわかった。
慌ててジェノスくんの服の裾を掴んで首を振る。
こちらこそ、申し訳ない。

「……あの、今日は」

今日は、うん。
今日の話をしてくれるようだ。
私はにこりと笑って頷く。
それだけで、ジェノスくんも嬉しそうににこりと笑う。

「今日は、ヒーロー協会に呼ばれて来たんです。何か連絡事項があるとかで、何時に来てもいいとのことだったので、先生に頼まれていた買い出しを済ませて、その後は、あ」

大丈夫。
読みやすいように気をつけて話をしてくれているのがわかる。
伺う様にこちらを見るが、ちゃんと伝わっていると、もう一度頷く。

「その後は、チャーハンを作って、先生と一緒に食べて、それから来たんです。連絡事項は、あ、きっと聞いていますね。それで、今は、その帰りです」

こくり、と頷く。
で、私を見かけて声をかけてくれたというわけだ。

「あの」

首を傾げる。
ずっと彼は何か言いたげで、そこまでの洞察力と推察力がないことが悔やまれる。
ジェノスくんはす、と私の手をとると、祈るようにそれを両手で包んで、俯いてしまう。
あ、その角度だと、きっと、唇が読めないけれど。
いいのだろうか。

「すきです」

きっと普通に声が聞こえたら、その言葉もわかるのだろうけれど。
わからなかったよ、とどうにか伝えるけれど。
彼は顔をあげて「いいんです」と笑った。
いいのか。
いいのか? 私は首をかしげるけれど、ジェノスくんがあまりにも綺麗に笑ったので、まあいいかと思うことにした。
こんな風に笑ってもらえるのなら、笑顔を守れるのなら。
別に何を失ったって。

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次、未定…
 
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