拍手、無音のヒーロー1


久しぶりにヒーロー協会に来た。
相変わらずこの世界はひどく静かで、自分の心臓の音すら聞こえなくて。
時折自分がこの世界に存在しているのかどうかすらわからなくなる。
まるで幽霊のようだ。
そんな事を考えていると、ぴたり、と体が動かなくなる。
こうして、他の人の力に触れたり、声をかけられたりすると、私はぎりぎりこの世界の住人なのだと実感できる。

「なによ、アンタ。今日は暇なわけ?」

わざわざ超能力で動きを止めて、前に回ってくれたのは、私がその唇を読みやすいようにだ。
この小さく見える大人な女の人はなんだかんだで優しい。
タツマキさんは、今、おそらく、暇なのかと聞いたと思う。
程なく、タツマキさんの超能力がふわりと解ける。
声も出ない為、こくりと一度頷く。

「ふーん。そう。暇なのね。なら、ちょっとつ」
「お、おー!!? なんだよ、来てたのか!!?」
「うっさい! なんなのよダンゴムシ頭!!」

金属バッドをぶんぶんと振って、金属バッドさんは楽しそうに笑っている。

「丁度よかった、今から妹と昼飯食いにいくんだけどよ、お前も一緒に行こうぜ!」
「はあ!!!!!!??」
「うっせーな……」
「私が先に誘ったのよ!! お呼びじゃないわ、帰りなさい、このシスコン!」
「んだコラァ!」

なんだか相変わらずだなあ。
私はそんなことを思うが、どうにか目の前の二人を止めなければ。
こんな時に声が出ないというのは不便だ。
近くにヒーロー協会の人を見つけるが、この二人の間に入るのは無理そうだ。
そもそもどうして喧嘩になったのだろう。
金属バッドさんはお昼を一緒に、とかって言ったと思う、タツマキさんも、もしかして同じことを言おうとしたのだろうか。
私が先に誘った、と言った気もするが、その意味はよくわからなかった。
私は鞄から、タッパーを取り出し、アルミホイルを取り出して、二人にひとかけらずつアップルパイを差し出した。
ああ、金属バッドさんには二つのほうがいいのかな。
となれば、タツマキさんもフブキさんの分がほしいかもしれない。
二人はそれを受け取ると、一度顔を見合わせた後、一つ溜め息を吐いた。
これで手打ちにしてくれるようだ。
よかった。

「また誘うわ。その時はフブキも一緒に」

頷く。

「その、悪かったな。あと、これサンキュー。妹も喜ぶぜ!」

にこり、と笑う。
うん、私は確かに、ここに存在している。

-----
20160410:幸せだといいなあ。
 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -