ティラミス/アマイマスク


綺麗とかそうじゃないとか。
かっこいいとかそうじゃないとか。
美味しいとかそうじゃないとか。

「甘いものが食べたいな」

少しだけ時間が出来て、たまたま近くにいたからという前置きの後に、アマイマスクはそう言った。
テレビと違わぬ綺麗な顔だ。
何故かヒーローの友達が多い私の休日。
彼を部屋に上げて、コーヒーの用意をする。
手馴れたものだ。
そして、今日ももちろんお菓子が冷蔵庫に作ってある。

「えー、と……、ティラミスでいい?」
「君の作ったものならなんでも」
「ははは、ありがとう」
「……」

彼に背を向けたままそんなことを言う。
アマイマスクという男のこれは、なんというか、まあ、病気のようなものだと認識している。
その病の名は、職業病と言う。
けれど、わかってはいるが、ふとすべて用意し終えて振り返った時に、じっとこちらを見ていた彼と目があってどきりとする。
綺麗な顔はしばしば人を殺しかける。

「はい、お待たせしました」
「なまえ」
「ん?」
「一緒に食べないか」
「うん? そうしようか」

私は自分のコーヒーを取りに行って、自分用にティラミスを盛った。
あ、紅茶のほうがよかったのかな?
まあ、いいかな?
そういえばティラミスもコーヒーで飲み物もコーヒーになってしまっていると気付くが、まあいいかと振り返る。
また、アマイマスクとバチりと目が合う。
私も正面に座って、コーヒーカップを持ち上げながら言う。

「……ねえ」
「なんだい?」
「あんまり見られると緊張するよ……」
「本当かい、それはよかった!」
「え、嬉しそう……」
「君は僕に全く興味がないのかと思っていたよ」
「興味?」
「ああ、いや、こちらの話だ。すまないね、見られるのは嫌だったかい」
「嫌というか、そんなことはない、けど」
「君を見ていると安心するんだ」

けど、である。
重度の職業病を患う彼に私ができることといえば、できるだけこの時間が美味しく楽しいものであるよう努めることくらいだ。
アマイマスクは笑っている。
それはいいことだ。
私が反応に困っていると、アマイマスクは、にこりと笑を深めて、ようやく私から視線を外した。
スプーンにすくいあげられたティラミスは、もう私が生み出したものではないかのように、きらきらしていた。
これが、世間でいうアマイマスクマジックというやつだ。

「うん、美味しい。流石はなまえだ」
「美味しいなら、よかった」
「本当に」

息が止まるような綺麗な眼差し。
テレビとは、少し違う気はしていた。

「幸せだ」

あまり見ない顔だが、ここにいる時は、よくしている。
気の抜けたような力の抜けたような、ふわりとした優しい微笑み。
重度の職業病患者の彼もこんなふうに笑えるのなら、いくらでも菓子を作っておいておくし、いくらでも話し相手になる。
折角、僅かな休憩時間を使って来てくれたのだから。
でも、さすがに、そこまで言われると照れてしまう。

「ほどほどにね」
「ありがとう、けどこの後すぐにドラマの撮影があってね。ああ、お礼になるかどうかはわからないけど、新曲のCDを持ってきたんだ。よかったらもらってくれないか」
「え、そんなそんな、ちゃんと買うよ」
「いいんだ」
「いやでも……」
「なまえ」
「うーん………、うん、ありがとう、って、サインまでしてあるけど、これホントに貰っちゃっても」
「いいんだ。持て余したら僕のファンにでも売ってくれて構わないよ」
「そ、そんなばかな……」
「はは」

それにしても。
やはりどうにも、視線が気になる。

「なまえ」
「ん?」
「また、来てもいいかい」
「え、う、うん。いつでも」
「そうか。じゃあ、僕は行くよ」
「あ、これありがとう。なんていうか、体に気をつけてね」
「ああ。もちろんだ。君もね」

なんでもないように、さらりと髪をすいて、髪の先にキスを落とす。
いつもだが、いつも緊張する。
将来彼と結婚するとか、付き合うとかそういう人は2重にも3重にも大変そうだと思った。
最後、玄関で振り返る彼は、笑ってはいるが少しだけ名残惜しそうだった。

「なまえ」
「ん」

ぱち、と目が合う。
そして数秒。

「いってきます」

にこり、今度の笑顔は曇がない。
私は一瞬思考した後、

「いってらっしゃい」

彼も言いたいことが沢山ありそうだけれど、なあ。
どうにも多忙を極めていて、立場とかいろいろがあって難しいようだ。
そんな彼が幸せであるように、ただ、祈っていた。

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20160407:いろいろ飲み込んでる。
 
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