ブラウニー/タツマキ


本当に唐突な姉妹だ。

「甘いものが食べたいわ」

戦慄のタツマキはそう言った。
彼女の様子は、傍若無人というよりは、どことなく暇そうだった。
実際暇なのだろう。
怪人情報も出ていない。

「うん」

笑って、何も言わずにコーヒーを出した。
フブキが来たとか、いつもどおりすぎて言う気もおきない。
タツマキは相変わらず子供のような背格好をしているけれど、その目や、その容姿の節々はたまらなく綺麗で、フブキと血縁であるというのは納得だ。
間違いなく、彼女らは姉妹である。

「なにがあるの?」

ふわふわと浮いて、ひょこりと肩から顔をのぞかせる。
二人で見ているのは冷蔵庫。
まあいろいろとあるが、すぐに食べられる甘いものはジャムとか、ああ、今朝作ったブラウニーが食べ頃かも知れない。
表面にコーティングしたチョコレートが崩れない程度に固まった頃だろう。

「ブラウニーでいい?」
「ああ、あのくるみの入ったやつね」
「そうそう」
「なんでもいいわ。むしろ、なんでいつもなにかあるのよ」
「来客多くて。最近きれそうになったらなにか作ってるからねえ。さすがにお客さん重なるとどうにもならない日もあるけど」
「ふーん、大変ね」
「大変とは思わないよ、むしろありがたい、かな」
「なんでよ。鬱陶しくないわけ? ある意味たかりよ、た か り!」
「……」

彼女はそんな事を言っていて大丈夫なのだろうか。
確かにそう捉えることもできなくないだろうが、そうなるとこの状況は何なのだろう。
まあさして、言及することもないかと小さく笑って私は言う。

「みんな、笑ってくれるからね。だから、いいの。こんな程度で役に立てるならいくらでも作るよ」
「あっそ、物好きね」
「そうかもね」

それをわかって来ている貴方も物好きだと思うけれど、「私はいいのよ」と、きっと、平気な顔で言うのだろう。
強い彼女は、きっとそう言う。

「なまえ」
「ん?」
「その口紅」
「あー、フブキがつけてて、私も欲しいかもって言ったら、一緒に選んでくれたんだよ」
「他には、何か言ってた?」
「んー……、いや、特にはって感じかな。それも含めて世間話くらいしかしてないよ」
「そ……」

ブラウニーを一口食べる。

「いつも通りね」

と、一言だけで褒めてくれる。
美味しくないものを無理に食べる姉妹ではない。
友人だからとそんな変な気を使うような人たちじゃないから、これは褒め言葉なのだ。
「ありがとう」と私が言うと、「ふん」とタツマキはコーヒーをすすっていた。

「なまえ」
「ん?」
「アンタもたまには家に来なさいよ」
「うん、じゃあ近いうちに」
「それから」

まっすぐにこちらを見ている。
この姉妹はものすごく綺麗な目をしている。

「何かあったら言いなさい。人がいいから騙されたりとかしそうだし」

あ、この言葉は。

「なにかあったら、なにかしたやつを消してやるわ」

きっと。
これを、フブキはずっと言いたくて、言えないんじゃないかと思っている。
タツマキはなんでもないように言ってしまうけど、フブキは、どうにも躊躇って。結局言うのをやめてしまう。

「私もフブキも、そいつのこと、許さない」

でも、この姉は。
やはりなんでもないことのように、さらりと代弁してしまうのだ。

「ふふ、ありがとう。おかげで、これからも安心して、私は私をやっていられるよ」
「はあ? 気をつけなさいよ、多少は!」
「気を付けてないわけじゃないよ」
「嘘ね!」
「何の弁解の余地もないね……」
「絶対嘘!」
「更に押すし……」

私が話半分にコーヒーを飲んでいると、ずい、からになった皿が差し出される。

「おかわり」
「はいはい……」

彼女の暇な昼下がり。
姉の話。


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20160405:安心できる場所を作る人。
 
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