人魚姫のお友達/サイタマ


少しだけ足を伸ばして散歩をした、海が見えたのでなんとなく海を見ていた。
そこで、なにか見慣れないものを見つけた。近寄ってみれば、見たことがあるようでないような生き物。
その様子はどちらかといえば。

「魚?」
「あ、君もしかして、失礼な人だね?」

上半身は人間だ。
怪人、ではなくて、人魚?
人魚は、怪人ではないのか?
それにしても。

「喋った!」
「もしかしなくても、失礼な人だ」

言う、そいつは大して嫌そうな顔はしていなくて、ただへらりと笑っていた。

「お前は?」
「魚のなまえだけど、君は?」
「俺は趣味でヒーローをやっているサイタマというものだ」
「ヒーロー? 変身したりする、あの?」
「え」
「え?」

俺が黙ると、そいつも黙ってじっとこちらを見ていた。

「あ、さては、変身した後だったかな」
「そ、そうそう、そんな感じ……」
「変身前は髪があるの?」
「ちょっと黙れ?」
「え、あ、そっか……、ごめんね……、そういうこともあるよ」
「ごめんじゃねーよ……なんで察するんだよ……」

なまえというらしいそいつはどこかで拾ったのかずいぶんくたびれたTシャツを着ていて、岩場に座り込んでいた。
見つけた俺は近寄ったがそいつに足はなくて、代わりに魚のような下半身があるだけだった。
海よりも爽やかな青色は、少し綺麗だ。
長い髪は遠目からもしっとりとしていて、思えば、顔を見たくてふらふらと近寄ったのかも知れなかった。

「なあ」
「ん?」
「海に住んでんの?」
「そうだね、割と深くで」
「ふーん、なんかいいな。お前らの世界にはヒーローいねえの?」
「え、うーん、ヒーローって明確にどういうものかわからないんだけど、どういう人がヒーローなの?」
「あー、難しい質問だよなー……、たぶん、とにかくかっこいいやつのことだろ」
「とにかくかっこいい……、私かな……?」
「……思い切ったヤツだな」
「人間はたまに助けるし」
「へえ。なら、そうだな。そいつにとってお前はヒーローだな、確実に」
「ふーん? 難しいね。別に私はヒーローじゃなくても魚って肩書きがあるからいいんだけど」
「なあもしかして最初に魚って言ったの怒ってんの?」
「ううん、面白かったから私も使ってるだけ。実は、こういう私みたいな種族を人魚っていうんだけどね」
「知ってるよ」
「人間は何か好きだもんね、こういうの、ホントはあんま見つかっちゃいけないって言われてる」
「そうなのか、まあ、たしかにあんまり見ないもんな、お前みたいなやつ」

ぼうっとしている、人魚はなにか考えていたようにも見えた。
何を考えていたのだろう。
何故だか、やたらと気になった。

「あなたは失礼な人だけど悪い人ではないと思うから、友達になってくれませんか」
「おー、人魚の友達なんてそうそうできるもんじゃねえから、いいぞ」
「おおー」

やたらと笑っている人魚は、最後まで笑っていて。
細くて白い腕をこちらに出したので、俺もマントで手のひらをぬぐって手を出す。
思ったよりも湿ってはいなくて、どうやら結構長い時間、この岩場でこうしていたようだ。
その掌は人間のそれと何らかわりがないと感じた。

「よろしく、サイタマくん」
「おう、よろしくな、なまえ」

なんにせよ、この日。
俺には人魚の友達ができた。

「今度は変身するところ見せてね」
「そっ、そう簡単に見れるわけないだろ」

そういうものか、と考え込むなまえを、うっかり少し、可愛いと思った。


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20160331:人魚ですわ。
 
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