暗闇へ/?


「なまえ?」

……あなたは?
それは、言葉になったかどうかわからない。
ここはどこだろう。
まるで夢の中のような、否、もしかしたらそんなに幻想的なものではなくて泥沼なのかもしれない。
綺麗な白い指が私に触れる。
顔を寄せて、キスされる。

だれ、

息ができたのはわかる。
この二文字は、どうだろう。
今度こそ声になっただろうか。

「なまえ」

そのひと、たぶん、人間かどうかはわからないけど、男の人は、なにか深くて重くてやさしいような感情で持って私を呼ぶ。
その固有名詞は私のものだと思っていたけれど、この人が口にするとまるで全く別のもののようだ。
全く別の、いいものか悪いものかは、やはり
わからない。

「っ」

舌の感覚がやけにリアルだ。
すべて奪い尽くすような必死さで、ただ私の舌を絡めていた。
君は。
この人は誰だろう。
知っているような気もする。
でも、あまりよく見えないのだ。
ここはどこだろう。
この人は。
ただひたすらに、耳に届くのはもう、私の名前でもなにかの言葉でも何でもない。
今は何時だろう。
時計の針の音すら聞こえない、ただ、舌を絡める水音だけが聞こえている。
唇を吸う音と、荒い息づかい。
夢だろうか。
夢ということでなければ、私は知らない人に好き勝手キスされていることになる。

「なまえっ……!」

そしてまた何度も、唇が触れ合う。
なん、だろう。
どうしてこんなに必死なんだろう。
そんな声で。
寂しい声で、私を呼ぶ。
あなたの。
あなたの名前を教えてくれたなら。

「すきだ……」

力なく伝えられる言葉の意味を教えて。
あなたの名前を教えて。
そうしたら、私もあなたの名前を呼ぶから。


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20160328:だれでもいい
 
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