様子のおかしい観音坂と山田家次男2


 昼休みに、飲み物を買いに来た。空は爽やかな青だけれど、じっとりとして暑いから、すっきりした飲み物が飲みたい。甘いとなお良い。こういう時は大抵レモンの味の、炭酸の飲み物になりがちだ。CCレモンを買って、その場で飲む。ふう、と息を吐いて、自販機の隣に置かれたベンチに座った。学校の敷地内だ。これはコカコーラから貰ったのか、安かったから買ったのか、ロゴの入った赤いベンチが置かれている。
 いい時間だ。もうしばらくここにいようと目を閉じると、声をかけられた。声は震えているが、しっかりこちらへ向いていた。
「な、なあ。なまえ」
 山田二郎くんだ。この学校でおそらく一番の有名人。イケブクロディビジョン。Buster Bros!!!のメンバー。校内ではそれはもうおモテになられている。私とはクラスも違うし話をしたこともない。が、私は何やら嫌な予感を感じて身構える。これはあまりにあれに似ている。
「最近、なんか、元気ないだろ。大丈夫なのか?」
 予感はするが、そうそうあんなことが起きて堪るか。モテる男がモテるにはそれなりの理由があると、これはただそういうわけに違いない。どこぞの変態のように秘密裏に私の名前を調べたり、私生活を調べたりしているわけはない。
「その、もし、なんかあるなら、ウチ、萬屋だから……」
 たぶん、たまたま見かけた私の顔色が悪くて気になって、それで声をかけてくれたに違いない。私は深呼吸して山田二郎くんに向き直る。
「山田くん、だよね?」
 心配されただけ。彼はただのいいひとだ。「ありが、」ありがとう。けど大丈夫。人間は慣れる生き物である。そこまで言うつもりはなかったが、どんな嘘をつこうとしていたか忘れた。山田二郎の顔が近い。というか、唇が触れている。
「っ、」
 なにしてくれてんだ。と手が出そうになるが、こんな時なのにこの男を殴ることの弊害を考えて手が止まる。外傷がつかないようにと肩を押す。押しているはずだ。山田二郎はびくともせず、ただ至近距離で目が合っている。目を閉じろよこういうことをするのなら! ついには、視線に耐え兼ねて私が目を閉じた。最終的に唇を舐められて、唇の上側を甘噛みされた。
 どうにかこうにか押し戻すと、山田二郎はハッとして、ただでさえ赤い顔を真っ赤にして視線を泳がせた。
「あ、悪い、俺」
 睨むようにして見上げていると、ごくりと喉が上下するのが見えた。やっぱりこれ同じでは。なんでまとめてふたりも変態の相手をしなければならないんだ。いや、期間を置いて来られても困るが。
「ごめんなっ!」
「……あ?」
 山田くんは全速力で走って行った。学校では割合に静かに暮らしいていたのに。あんな地雷みたいな男がいるとは。いや、いてもいいが、なんでまた。なんで。私は買ったばかりのジュースを持ち上げる。小刻みに、中の液体が震えている。新しい変態に出会ってしまった恐怖がこれだ。また、慣れるまでにしばらくかかることだろう。


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20230709:暴走しまくってくれたら嬉しい。

 




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