そんな感じでよろしく:3


普通に仲が良さそうに見える。ドラルクとジョンが出かけている間、事務所で歓談していたらしいなまえとロナルドは、はじめて会った時に比べて明らかに打ち解けていた。「お邪魔してます」そう笑うなまえにドラルクの顔はひくつくばかりだ。
さっさと引き離さなければ、と思うがなまえは元々ドラルクと遊ぶ為に来ている。帰って来たドラルクに近寄り、ジョンの頭を撫でた。やや溜飲が下がる。

「よし、ならこの間の続きだ」

ゲームが始まってしまえばロナルドの入る隙などありはしない。が、今日やる予定だったゲームが最近発売したばかりのパーティゲームだったせいで、そしてなまえとロナルドが仲良くなりつつあるせいで、なまえはさらりとロナルドを誘ってしまった。

「ロナルド君も原稿ないなら一緒に」
「いいんですか!」

ぴょこんと飛び跳ねて寄って来るがドラルクにしてみれば面白くはない。テンポが悪くなるとか適当な理由で追っ払おうと口を開くが、なまえが楽し気にドラルクとジョンを振り返る。瞬間、展開が読めて再びムカついてきた。

「駄目ってことはないと思うけど」

「ね?」そんな風に同意を求められては「いいや駄目だ」とは言い出しづらい。せめてコテンパンにして泣かせてやることにして「どうしてもと言うなら混ぜてやるとも」と笑った。



「少し休憩をいれようか」と言ったのはなまえで、ロナルドはそれに真っ先に同意し「何か買ってこようか」と席を立とうとしたなまえに「俺がいきます!」と積極的なのか控えめなのかわからない提案をした。ジョンは場の流れを読みロナルドについて行った。
改めて二人で残されたことにより沈黙が流れるが、溜りに溜まった文句を言うのに丁度良い時間ができた。ドラルクは死なない程度になまえをつつきながら言う。

「最近、ロナルド君に優しすぎるんじゃないか」
「ん? なにかまずい?」
「甘やかすとろくなことにならないぞ」
「でも最近可愛く見えてきて」

ロナルドの好意はあけすけで、誰が見たってなまえを気にしているのがわかる。なまえから見ても明白だろう。そんな男に対して「かわいい」とは。本気にしていないことはわかるが嫌に好意的な反応である。ドラルクには「かわいいからいいか」といつかあの勢いに呑まれるなまえが見えた。「吸血鬼にしてみれば、人間一人と付き合う時間なんて一瞬だ」などと、軽く構えて、そして後から後悔するのだ。なまえのことは一番わかっている。

「カワイイ!? それは私とジョンにのみ許された言葉だ」
「そんなキャラだっけ……」

どうにか考えを改めさせようと思い普段のロナルドについてあれこれ言うが、なまえが揺れる気配はない。「そもそも君には警戒心が足りない」「みんながみんな君のように軽いわけではない」「考えなしに優しくすると面倒なことになる」そのおかげで良い思いをしているのはロナルドだけではない。自分の言葉が自分に刺さるのを聞きながらも、とりあえず自分の事は棚に上げて彼女にびしりと言い放った。「とにかく!」

「君はただ面白がっているだけかもしれないが、」

事態は深刻になりつつあるのだ。言い切る前に、なまえの手のひらがドラルクの頭に触れた。頭を撫でられたくらいでは髪型が乱れることはないが、頭の中は空っぽになった。何を言おうとしていたのか一瞬で忘れる。

「そんなことでは、君は」

なまえは昔からドラルクが好き勝手になまえにかける言葉をただ聞いて、こうして、全部わかっているという顔で笑い、最終的には頭を撫でて有耶無耶にしてしまう。二百年繰り返されたワンパターンな懐柔方法。次こそは言いたいことを全て言おうと思うのに、本日も言うべき言葉を見失ってしまった。

「あんまり熱くなると死んじゃうよ」

柔らかい指が自分に触れているのを感じる。昔からこうで。これで充分で。だけれど彼女がドラルク一人を選んでくれたことはない。ただ目の前で駄々を捏ねているからこうしてくれているだけだ。相手がロナルドであっても似たようなことをするだろう。それに気付いたのは何十年前だっただろうか。「ばっ」

「バーカバーカ! そんな風にフワフワしてるから嫁の貰い手がないのだ!」

ロナルドならば喜んだのだろうが、素直に全身で喜びを表現することなどできない。何年拗らせていると思っているのか。

「そうだね。けどもしかしたら私でいいなんて物好きとそろそろ出会うかもしれないし」
「ウワなんだ君その年になってまだ運命なんてもの信じてるのか笑えないぞ」
「はいはい。そろそろロナルド君とジョンが帰って来るから落ち着きなさい」

死なないように丁寧に触れられている。ヒートアップしすぎて死ぬのを心配されている。本気で言っていないことを理解されている。怒らないでいてくれている。思うところがないわけではないはずだとわかる。さらさらと撫でられ宥められて、なにがしたいのかわからなくなってきた。

「クソッ、他の男に同じことしたら承知しないからな!」

もっと素直に縋れたらほだされてくれる気はしているけれど、それが出来たら苦労はしない。


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2021120

 




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