そんな感じでよろしく:1


事務所へ足音が近付いてくる。ドラルクは手元のゲームにあまり集中していなかったのだと気が付いた。別のことを考えていたのは確かだ。ジョンはGAME OVERと表示された画面とドラルクの顔を気遣わしげに交互に見た。ヌーと鳴くアルマジロの頭を撫でながらリプレイのボタンを押す。かちかちと操作して、いつも通りにロナルドを出迎えようと思ったけれど、配慮のない足音が事務所の前でピタリと止まった。
三秒ほど後にいかにもいつも通りを『装っています』という風のロナルドが帰ってきた。

「ただいま」

と、メビヤツに帽子をかけるところまではいつも通りだったが、ジョンに気持ちの悪い溶けた笑顔を向ける余裕はないらしい。うろうろとその辺を行ったり来たり、銃を出したりしまったりしている。

「どうした。見回り中に美人のお姉さんでもいたか」
「なっ、ばっ、そっ……!!」

何も無いならさっさと手を洗ってきたらどうかね。ドラルクは冷ややかに言ってゲーム画面に視線を戻したが顔を真っ赤にしたロナルドが勢いよく突っ込んできたので再度顔を上げる。驚いてちょっと死にかけた。

「……そうだよ!!」
「うむ。聞いて欲しい欲が勝ったな」

面白い話ならば大歓迎だ。
適当に飲み物を用意してにやにや笑いながらロナルドの言葉を待つ。ロナルドは真っ赤になった顔を手のひらで覆っている。今時小学生でも異性の話をする時そんなに照れない。ジョンを撫でて時間を潰す。オーディエンスが始まる前から飽きているのを感じてか「ちゃんと聞け」と銃を向けてくる。「ウワーーー情緒!!」ドラルクが一度死んだのを見て落ち着いたのかロナルドはようやく口を開いた。声が小さい。いつもの五分の一以下だ。

「多分、吸血鬼、だったと思うんだが」
「ほうそれはまた! 退治人と吸血鬼の恋だなんてうまくいってもいかなくてもロナ戦が盛り上がるじゃないか!」
「うるせえ死ね」
「それで、どんな子だったのかね」
「そんなにジロジロ見たら失礼だろ」

などとロナルドは言ったが、目元はとか髪はとか身長はとか色々と特徴が出てくる。ふんふん言いながら聞いていたが、とうとう黙っていられなくなり「しっかり見ているじゃないか」と笑ってしまった。「うるせえ、殺すぞ」言い終わる頃には既に殺している。
形を戻していくと、ジョンがドラルクの膝の上で首を傾げていた。

「ヌー?」
「ああ、そうだねジョン。ロナルド君の言う女性吸血鬼の特徴はなんだか」

彼女を思わせる、ような。
どう言ったものか悩んで城が壊れたことを伝えるのを先延ばしにしていたが、新横浜に来ているのだろうか。壊れた城を見たら驚くだろうが、新しい観光名所にされているし、おかしな勘違いはさせないで済むだろう。ここのこともすぐに分かるはずだ。

「もしかしたら、近々ここに来るかもしれないね」
「ヌヌー!」
「なんだよ何の話だ仲間外れにすんな殺すぞ」
「フフン、私にそんな口が聞けるのも今のうちだぞロナルド君」

ロナルドが「なんだとこの野郎」と立ち上がったタイミングで、事務所のドアをノックする音が聞こえた。

「ごめんください」
「ああどう、ぞ」

ガチャリと扉を開けたのは吸血鬼の女性で、ロナルドは彼女を見て固まり、ジョンは素直に駆け寄って行った。ドラルクはロナルドの後ろで楽しくて堪らない、と言う風に笑う。

「すいませんここにドラルクって吸血鬼がーー、あ、いた。ジョンも」

彼女は駆け寄ってきたジョンを抱き上げた。慣れた様子で胸に抱えて頭を撫でる。百年以上そうしているだけあって、年季が入っている。
口をパクパクさせているロナルドを尻目に彼女が言う。

「城無くなってるからびっくりしたよ」
「それはここにいるロナルド君がやったのだ」
「じゃあ、今ここに住んでるっていうのも本当なんだ?」
「そうだとも。だから私に会いに来る時はここにきてくれたまえ」

「ええ?」驚いているのか困惑してるのか、それとも何も考えていないのかわからない言い方だった。彼女がちらりとロナルドを見る。視線を投げられた、と、それだけの理由でガチガチになるロナルドは彼女の新たな情報を処理するだけで手一杯のようである。

「いや、ここ彼の事務所でしょう。用事もないのに来たら迷惑で」

「そんなことを気にする必要は一切ない」そんなものに気を使う必要もない。胸を張って言うつもりが、突如元気になり彼女の両手を掴んだロナルドが勢いよく言う。あまりの勢いにドラルクは少し死んだし、挟まれたジョンはちょっと潰されている。彼女の髪がぶわりと靡いた。

「来てください! いつでも!」

絶対に唾とか飛ばしている。彼女は突然手を掴まれて目を丸くしているが、言葉の内容のみを受け取って、またやや前のめりな態度も汲んで、ロナルドの奇行をものともせずに笑って見せた。

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

にこり、と彼女に微笑まれて、ロナルドはバタンと後ろに倒れた。
君に会いに来るわけじゃないんだぞ。聞いているかね。ドラルクはジョンと一緒にロナルドをつついたが、しばらく起き上がってこなかった。


------------
20211107:ロナルドだったりドラルクだったりジョンだったりする

 




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -