最初に言い始めたのはペッシだった。「なまえの淹れてくれたコーヒーは何故だか美味い気がするんだよなあ〜」呑気に言っている横でプロシュートが「実際美味いんだ。なまえはコーヒーについてはなかなかうるさいからな」と、得意気にしていた。「なまえのコーヒーは」なにか言いかけたイルーゾォにかぶるようにして「その、ナントカにうるさいって言葉よお〜。詳しい奴ってのは総じて良く喋るっつーことなんだろうが、うるさいってのは口やかましいってことだよなあ〜? 全然褒めてねえじゃねえかッ! ナメてんのか! クソがッ!」「実際美味いよなッ!」メローネはギアッチョが投げた灰皿を避けながら笑う。灰皿は丁度部屋に入って来たホルマジオに当たって落ちた。ホルマジオはギアッチョとひと悶着した後にしっかり『なまえのコーヒーの話題』に参加し、なまえの淹れたコーヒーが美味いということには同意しきりであった。――つまり、オレだけが知らなかった訳だ。
なまえはきっと、今日、夜中には帰ってくるだろう。そう報告を受けている。誰もいなくなった部屋で待っていると、彼女は、時間通りに帰って来た。流石だ。と思う。
感心する俺を見て、こんな時間にこんな場所で。と、彼女は呆れていた。しかし「まあ折角顔を合わせたし」と簡単に報告を受ける。つつがなく、という感じで話はすぐに終わった。「ご苦労だった」早く休めと言うつもりだったが、出てきたのは疲れて帰ってきた彼女に甘えるような言葉だった。
「コーヒーを淹れて貰えるか」
「え、い、今?」
なまえは案の定オレの言葉を疑って、そう聞いた。言うつもりのなかった言葉だった。まあ、言ってしまったのなら仕方がない。
「ああ。今だ」
なまえは不思議そうにオレの顔を見つめていたが、断る理由も見つけられなかったようで「いいけど……」とキッチンへ向かった。視界から消えられるのがどうにも嫌でオレも続く。彼女はますます不審そうにしたけれど、もうなにも聞いてはこなかった。計量スプーンで二杯、豆をすくうとグラインダーの中に入れてハンドルを回す。ゴリゴリと豆が削れる音がする。数分もせず粉にしてしまうと、フィルターに流し込んだ。湯の温度を図って、慎重にお湯をかけていく。美味いわけだと納得し。何故、オレは知らなかったのだろうと薄暗い気持ちになる。なまえはオレをちらりと見ると、手のかかる子供でも見るような顔で溜息を吐いた。
「はい、できた」
できあがったコーヒーは二杯。オレと彼女の分だ。シナモンで香りづけされていた。そういう注文はしていないが、もしかしたらなまえはメンバー全員にこういうことをしていたから高評価を受けていたのではないだろうか。彼女はオレの正面に座る。
「なんだかよくわからないけど顔色悪いし。こんな時間にコーヒー飲んでないで寝た方がいいと思うよ」
ぼうっと彼女を見つめていると「冷める」と睨まれた。淹れさせたのだからさっさと飲めということらしい。「計算してるんだ。こっちは。淹れたてが一番美味しいように」ぶつぶつと文句を言うだけあって、評判以上に身体に沁みた。
「で、なんで夜中にコーヒー?」
「おまえも飲んでるじゃないか」
「こんな時間にリーダーに一人寂しくコーヒー啜らせるわけにはいかないからでしょうが」
「悪いな」
「いいよ」
きっと誰にでも言っているのだろう。こうして、誰にでも付き合ってやるのだろう。オレでなくとも。もしかしたら仲間でなかったとしても。一人で勝手に苦しんでいると、彼女は言う。
「悩みごと?」
「悩みは、あるな」
「まあ、そうだよね」
なまえはなにを想像したのかわからないが、難しい顔でカップを傾けた。まさか、その唇に釘付けになっているとは想像できまい。「リーダーだしね」仕事の悩みだと思っているようで、オレは少し体が軽くなってきた。この浅ましさを知られないのはせめてもの救いだ。余計なことを言っちまわないように、もう少し、彼女に力を借りようと思う。
「なまえ」
「うん?」
「なにかいい気晴らしを知らないか」
「……シナモンコーヒーくらいじゃ足らないか。わかった。ちょっと待ってて」
彼女は言うが早いかメンバー全員をたたき起こして集まらせ、人生ゲームをはじめた。元手は彼女で本物の金がかかった人生ゲームだったので、それはもう盛り上がり、朝には全員一様にひどい顔で、なにを思い悩んでいたのだったか、しばらく思い出せなかった。


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20220420:暗殺チームの情報をおくれェーッ!
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