病院へ連れて行かれ、手当てを受けると家へ送り届けられた。なまえは一人で帰ろうとするので「泊まってけよ」とごねてみたが「私は部屋の片付けがあるから」とさっさと帰った。そんなんだから捨てられんだ、と文句を言ったが「アバッキオは捨てない」などと言うので黙るしかなかった。わかってるならいいんだよ。
正式に恋人同時になったわけだが、変わったことはあまりない。オレは相変わらず必要以上に(となまえは言う)なまえを気にしているし、なまえは一人でなんでもやるし、どこへでも行く。チームの連中はある程度察していただろうが確証はなかったからか、にやついているばかりでなにも言ってこなかった。
しかし、ある日、なまえがオレの存在を忘れて仕事ばかりしていやがるから腹いせに見せつけてやろうと、ブチャラティとの会話に割って入った。腰を抱いてキスをする。公表してやったぞざまあみろ。こいつらもさぞ嬉しいことだろう。
「その仕事にはオレもいく」
「いや、別に一人で」
「いいから連れてけ」
「……」
なまえが「ハァー……」と長い溜息を吐いたのが珍しかったのか、ブチャラティとナランチャ、そしてフーゴは集まって来てオレを胴上げした。やめろ。ミスタがついてこれてねえ。付き合いが浅いからしょうがないかと思ったが、数秒後には「なんか面白そうじゃあねーの」と混ざっていた。
手の包帯が取れる頃には、オレはすっかりなまえとの付き合い方を心得ていた。オレはなまえを家まで迎えに行き、じっと顔を見下ろして言い放つ。
「昨日の睡眠時間は?」
「……」
「またやったな」
決まった時間に寝起きしたほうがいいに決まっているというのにこの女は。体を大事にしろっつってんのによ。晩飯はちゃんと食ったのか。体調は悪くないのか。寝不足なら注意力が必要な仕事はフーゴにでも代わってもらえ。「そんなわけにはいかないでしょうが」「なら自己管理くらいちゃんとしろ」「できてないことはない」「ハッ」来客中に気絶するように寝る女が何を言っているんだか。
「で、何時間寝た?」
「大丈夫だってほんとに」
「おまえの、おまえに関することへの大丈夫は九割嘘だからな。大丈夫じゃねえだろうが」
「アバッキオは? 昨日寝れた?」
「オレのことはいいんだよ」
今話しているのはなまえのことだ。まったく。すぐに論点をすり替えようとする。なまえは「だから、そんなに気にかけてくれなくても」勝手に死んだりしない。なまえはよくそう言うが、全くもって信用できない。
「いいや気にするね。なにせオレはおまえの男だからな。おまえに口出しをする権利がある。そしておまえには、オレの言葉を聞く義務があるってわけだ」
「恋人ってそういうのだっけ」
「一心同体だろ。とすれば、オレがオレの体を心配することは、至極当然だ。最も、オレの体がオレの言うことを聞いてくれるとは限らねえけどな。せいぜいうるさく言ってみるとするぜ」
「ハァー……」
なまえは折れて、ようやくオレの質問に答えた。
「三時間」
「それは寝たとは言えねえよ」


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20220514:『BRUSH UP』了
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