こうなれば頼る先は一つしかない。数日後、ブチャラティの家を訪ねてノックをすると「開いてるぞ」と不用心な返事があった。
「ようやく来たな」
ブチャラティは読んでいた本を閉じて笑った。彼の家に来るのは久しぶりだった。用事がなければわざわざ来ない。そもそも、来なければならない事態にしない。ただ、自分一人でどうにもならないことについては、リーダーを頼るのが一番だ。
「ようやくっていうか、仕事に支障がっていうか」
私は一人で動くことが多いし、問題ないと言えなくはないが、外から見た時、間違いなくこれは綻びに見えるだろう。弱味に見えるのはまずい。いざと言う時団結できないのも、またまずい。
「珍しく困っているな」
「あそこまでだと流石に。ブチャラティは平気そうだけれど」
「いや、オレも困ってはいるぜ。なにせこれは、オレ一人では解決できない問題だ」
私か、あるいはアバッキオでなければ。
私は既に、やれることはやっていると思う。実際前には進んでいて、一時期は仲良くやれていたのだ。あと、私がやれることと言えば。例えばこれだ。
「チームを抜けようか?」
ブチャラティは、そうはならないと思っているのか、それでも然程状況に変化はないと思っているのか小さく笑った。
「確かに手っ取り早くはあるだろうが」
「なにか仕事があれば回してくれたらいいし」
私がブチャラティのチームである必要性はない。同じ組織に属しているには違いないし、もしかしたら同じチームではないからこそ協力できること、というのもあるかもしれない。
「それでいいのか? おまえは」
「いいもなにも。やることはさほど変わんな――」
後ろから思い切り肩を掴まれた。どこにいたのか、話は全て聞かれていたらしい。これはブチャラティの仕業だろう。ブチャラティの仕業なのはいいが、アバッキオがこれは、かなり怒っているように見える。今までで一番激しく私の体を揺らす。
「てめーはッ! 一体、何考えてんだ!」
「アバッキオ」
彼はぐっと私の胸ぐらを掴んで持ち上げた。近くで目を見るとよくわかる。怒っているように見えるけれど、これは別に、私に怒っているわけではない。
「呑気な顔してんじゃねーぞッ! 自分が何言ってるかわかってんのかッ!」
私を掴む手だって震えているし、視線も同じくぐらついている。「落ち着いて」私が悪かったから、という前にアバッキオが叫ぶ。
「そんな話になるんだったら、オレが出て行くほうが良いに決まってんだろーがッ!」
息があがっている。ブチャラティはここまで予想していたのか狼狽えた様子は一切ない。アバッキオは出て行ってしまった。服に皺が寄っている。あんなに感情を露わにしておいて手加減していたようで、皺が寄る、程度のダメージで済んでいる。
「悪いな、なまえ」
「悪いと思ってる顔してないよ、ブチャラティ」
「これは、どう考えても、お前達が二人で解決しなければならない問題だ」
「わかってる」
「なまえ」
「なに?」
「必ず、なんとかしてこい。おまえもアバッキオもオレのチームにいてもらわなきゃ困る」
リーダーがそう言うのなら、これは命令だ。どんな手を使っても、私とアバッキオとはうまくやらなければならない。
「わかったな?」
「心配してないでしょう。釘刺さなくてもいいよ」
「ここは気持ちよく返事をするところだぜ」
アバッキオは苦労するな、とブチャラティは言った。


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20220514
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