07 S


「は……………?」
「だから、そういうこともあるんだなあって」

金属バットくんと一緒に昼ごはんを食べるのは、これがはじめてではない。
何故か親よりも私を心配してくれる彼は、私の心配をしながら妹さんについても教えてくれる。
ゼンコちゃんというらしい妹は、ピアノを習っているんだとか。
発表会とかやるんだ、楽しそう。と言うと、今度見に来いよ! と嬉しそうであった。
良い兄、と表現しておくことにする。
だけれど、S級ヒーローとしての活動が忙しくて、あまり遊んであげられないのだとか。
そんな金属バットくんは、目の前で大口を開けて惚けている。
うん。風が気持ちいい。
屋上は忍び込むものだ。

「はァ!!!!???」
「ん?」
「ん? じゃねえよボケ!! S級になったって、マジで言ってんのか!!!?」
「なんかそうらしいねえ、でもまあ私程度じゃS級はS級でも最下位止まりだと思うし。あまり上がる気がないし………」
「マジかよ……」
「うん、まさかA級すっ飛ばしてS級とはね」
「いや、それはない話でもねえみてーだぜ? 俺だってC級から一気にだったからな。ヒーロー協会の奴らに声かけられたんだろう?」
「それが、なんかよくわかんないんだけど、アマイマスクに声かけられて……」
「はァ!!? なんじゃそりゃ!? ナンパじゃねえか! あの野郎殺してやる!」
「な、なにもそこまで……」
「あ………」

金属バットくんは、アマイマスクさんがあまり好きではないらしい。
彼の話は控えよう。

「ま、まあ、な、大丈夫だったならいいんだよ」

大丈夫だった、と表現するにはあまりに気分の乗らない時間ではあったものの、こうして、無事学校に来ていたりすることを思えば、確かに「大丈夫だった」と言えなくはない。
大丈夫だった。事にしておこう。

「ところでなんだけど、悩んでることがあってさ」
「! な、なんだよ?」
「S級になったら、ヒーロー協会の人達になにか欲しいものとかあったら言ってねーみたいなん言われてるんだけど、参考までに金属バットくんは何してもらったのか教えてくれない?」
「あ、あー………」
「……ちょっと残念そうだね?」
「そ、そそそんなことねえよ。俺はこれだよ、バット。前はそのへんで買ってたんだけどよー、すぐに折れやがるからな」
「折れないバット、頑丈なバットかあ。なるほどね、武器の強化……」
「そんなに考えることか?」
「んー」

自転車、ライダースーツ………、いやそれはちょっと、私もS級のヒーローになってしまったのだから、そんな一ファンであることを前面に押し出してはいけない。
まだまだ考えている途中だが、なまえというヒーローを少しずつでも確立させていかなければいけないだろう。無免ライダーさんを追いかけていたと思ったら、順位的には追い抜かしてしまった。
とは言え、ヒーローらしさ、というのは彼の方が1000倍は上で、彼は自分が目指すヒーロー像というか、そういうものがしっかりしている。
理想と現実は違うだろうが、だからこそ彼はかっこいいのである。

「そういやあ、お前は武器とか使ってんのか? 素手ってことはねーだろ?」
「あー、と、ワイヤーだよ。切り裂くものとか爆発するものとか、単純に刀とか、そういのよりは持ち運びが楽だし、高校生であるってことも考えると、ポケットから凶器が出てくるのはまずいしってことで」
「? 誰かと決めたのか?」
「うん、師匠と。だから、1通り使い方はわかるんだけど、このワイヤーが自分には合ってて」
「そんなんで戦えるのかよ……?」
「んー、あ、例えばほら、あの転がっている石見て」
「?」

す、と黒い手袋をはめて、ワイヤーを取り出す。
制服に仕込んでいたり、もらった布に仕込んでいたりいろいろだが、あの程度のものならこれくらいで。

「うお!?」

ころり、と、石は2つに割れて転がる。

「まあこんな要領で」
「…………ほんとに強かったのか」
「ほんとに強くない人をS級あげるようには見えなかったけれど。あの人」
「あの人だァ?」

あの奇妙な茶会を思い出す。
正直あの人もあまり普通ではない

「アマイマスクさん」

あー、と気の抜けるような声を出す、金属バットくん。
おそらく私も同じ反応をしただろう。
あまり、アマイマスクの話はしたくないようで(確かに、彼とはそりが合わなそうだ)、話は次の話題へとシフトする。

「ま、実際弱い奴はいねえよ」
「あんまり人数もいないんだってね。みんな顔見知り? どんな人たち?」
「どんな? どんなってお前………、簡単に言うと、変な奴らの集まりだ」
「んー」

強い人ってやはりおかしいのだろうか。
師匠も大概変質者であるし、強いとなると、周りと分かり合えないことも多いのかもしれなかった。
だから多少浮くのは、もしかしたら、仕方がないのかもしれない。
変人というと師匠がイメージとして浮かぶが、師匠が浮かび上がることにより、S級同士で協力、とかっていうイメージが遠ざかっていってしまった。
ヒーロー同士で仲良くなることは……。

「ん………?」
「あ? なんだよ? どーした?」

考え込んでいたが、ふと目の前を見る。
クラスメイトでS級ヒーローの金属バットくん。
そういえば、私は金属バットくんと仲良くやれているな。

「金属バットくんさ」
「あ?」
「すっかり私とは友達だね」
「………」
「S級と言ったら金属バットくんもいるんだし、まあ、たぶん大丈夫かな。何ていうか、S級になって少し緊張っていうか、やっていけるかなーみたいな漠然とした不安があったけど、なんとかなりそ」
「………」
「………金属バットくん? もしかしてご迷惑でしたかね?」
「………いや! なんつーか、お前でも不安になることがあるんだなと思ってよ。心配ねーだろ。いざとなったら俺がなんとでもしてやるよ」
「おー! 頼りになるー!」
「だろうが」

クラスメイトとのランチタイムを経て、少しだけ気が楽になった。
まだまだ私は「なまえ」というヒーローとして何をしていくか考えるんだけれど、それでも、まだ、学校にいるあいだは、ただのなまえをやれている。
ふう、と人知れず息を吐いて、少し力を抜いた後思い出す。
ヒーロー協会には、なにをしてもらうのがいいだろう?

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20160611:実際金属バットはかっこいい
 
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