06 純然たる戦闘能力


ヒーロー同士は、あまり仲が良くないと勝手に思っていた。
チームで活動するヒーローもいるようで、近くにいたヒーローと共闘することもあるようだ。
かなり大雑把に捉えれば、ヒーロー協会に所属すると言う意味で、戦隊ヒーローのようなものであるとも言える。
しかし、その雑な絆は力を生むのだろうか。
「くだらない」と思わずあの師匠のような言葉が喉から出かかるが、どうにか抑える。
例えば無免ライダーさんは、内心どう思っていようと、こういうことに、否定的ではないはずである。
うん。
まあ、いいんじゃないか。それでうまくいくのならば、なんでもやったらいい。
しかし、巻き込まれるのは流石に面倒だ。

「なまえ。今日こそフブキ組に入って貰うわよ」
「あ、こんにちはフブキさん、さようなら」
「ま、待ちなさいよ!」
「……」

最近私の活動範囲で待ち伏せして、怪人を倒すタイミングで現れる。
今日はB級トップのフブキさん、フブキ組トップのフブキさんだったが、二日ほど前は三節棍のナントカとか言う女の人に捕まった。
素顔が割れたら面倒そうだ。
1時間ほど、この姿では無免ライダーさんに見てもらってもただの変質者だと落ち込んだけれど、結果顔を隠して変質者のような姿になったことは正解であったと言える

「お断りします、せっかくお声をかけていただいたのにすみません、失礼します」
「ちょっとなまえ!!! ……あら? いない???」

人混みに紛れるのも、最近さらにうまくなった気がする。
師匠に初めて褒められたのも、このあたりの技だったような。
人混みに紛れたなら、さっと変装を解いて、女子高生に戻る。金属バットくんみたいにS級になってしまえば、このあたりからの声はかからないのだろうか。それは利点ではある。
しかし、それでは。
………うーん。
いや、簡単にS級になれるなんて思ってもいない。
なったら、なんて話は、なりそうな時にしよう。まだまだB級なのだし。……着々と順位が上がってしまっているけれど、まだまだないだろう。
たぶん。

「ん?」

考えながら歩いていると、また、何処からか悲鳴が聞こえる。
怪人も忙しいものだ。
それしかやることがないのだろうか。
ぱたぱたと走りながら、サングラスとオレンジの布をつけて、現場へ向かう。
案の定、騒ぎの中心にいたのは怪人で、大口を開けて高笑いをしながら暴れている。すっと、黒い手袋をつけると、さらりと武器を出す。
彼は、「無免ライダー参上!」なんて言って正々堂々であるから、私もまた卑怯だなんだと言われないように怪人の目の前に出る。
少しだけ考えるが、なんと名乗るべきかやはり迷って、何も思いつかなくてすい、と無言で構える。
金属バットくんが教えてくれたが、なんだかこれも一種のスタイルとして、世間にしれているらしかった。
みんなこんなに頻繁に現れる怪人を、倒しただの倒すことに協力しただのというのをわざわざヒーロー協会に報告するのだろうか?
それはそれで暇な話だし、私は報告したことがないことを思うと、誰かが報告してくれているのだろうか。まだスタイルなんかないから、C級で良かったのに。
こんなにさらりとB級になれてしまうなんて、他が大したことないのか、それとも、あの師匠が、割ととんでもないのか。
うーーん、後者な気がする。

「なんだお前は? ぼーっとしやがってやる気あるのか? それとも殺されに来たのか? ええ? いいかよく聞け、俺様は幾度となく暴れてきたが未だヒーローにはやられていない! わかるか? 強いってことだよ! お前みたいな小さい変質者はさっさと帰ったらどうだ?」

俺様の名は、と名乗り出す。
自分の名前に自信があるのだろうか。名乗ることにより、弱そうに見えているけれど。
否、自信がなければ、こんなところで暴れたりしない、か。

「はははははははは! どうだ! ビビっただ、」

わかったわかった。
そのどこから来るのか全くわからないという自信にはビビったから、もうこれ以上、他人に迷惑をかけるのはやめておこうよ。
私が、すい、と手を引くと、怪人はバラバラになって地面に落ちた。
おとなしく無駄話を聞き流していたわけではない。
武器を構えたのが、彼には見えなかったのだろうか。
私はちゃんと終わったことを確認して、後片付けはほかの誰かに任せてその場を去るべく歩き出す、歩き出した先には。

「すばらしい、噂通りだね」

あ。
面倒くさそうなのに出くわした。
いや、私と、私に声をかけた彼は、初対面ではあるのだけれど、オーラとか立ち振る舞いとかそういうのがなんだか面倒くさそうなのである。
二秒ほど逃げるかどうするか迷ったが、逃げるのはやめておく。
ヒーローたるものこの程度の事象から逃げ出してはいけない、と思う。
目の前で綺麗に笑っている青い髪の男の名前を知っている。

「僕はA級のアマイマスク、なまえさん、だね?」
「……………」

深く深く、頭を下げる。
そのまま逃げたい。

「君を、S級ヒーローに認定する」

なんだって?
A級じゃなくて、S級って言ったのか?

「僕はそれを伝えに来たんだけど。ついでに少し話をしよう。時間、あるかい?」

ありません。
とは、言わないけれど。
脳裏にちらちらとよぎる無免ライダーさんには、近付くどころか遠ざかっている。
そんな気しかしなかった。

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20160609:師匠は喜ぶだろうけど
 
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