05 期待の新星は女子高生


新しいヒーローは女子高生で、つい最近ヒーローになったばかりというのに、既にB級に上がっていた。
強いひとというのはやはり、いるものだ。
こういう人には、何が見えているのだろうか。
そんな彼女は、なまえさんというらしい。
ヒーロー名簿には、オレンジの布を首に巻いて、サングラスまでした上でうつっている。顔などほとんどわからない。
同じ高校生の、金属バットさんは顔を出しているし、なにか顔を出したくない理由でもあるのだろうか。本名が出ているから、親しい人にはバレてしまうだろうに。
かく言う僕も、ゴーグルにヘルメットで、同じようなものだけれど。
ところでどうして僕がそんなことを気にするのかと言えば、なまえさんはそんなヒーローとも不審者とも言えない格好をしているが、小さな人助けもよくするらしい。
つまり、僕が手を貸したり見守ったりする市民の皆が、最近よく話をしているのだ。
僕は活動している時に会ったことはないけれど、毎日のように彼女は街を歩いて、怪人を倒しているらしい。
フブキ組に声をかけられていたとかって言う話まで耳に入る。
金属バットさんと一緒に歩いていたとか、やたらと黒い整った顔の人と挨拶を交わしていたとか。
一体どんな人なのだろう。
モニターを見ながら考える。
インターネット上でも評判は良いようだ。
なんでも、糸のようなもので一瞬で怪人を倒してしまうらしい。
何を言うでもなく、無言で、名乗ることさえなく、笑うこともなく。
もしかしたら、すごく人見知りなだけかもしれない、とても強いヒーローなのに、少し、面白い。
ふと、時間を見ると、そろそろパトロールへ出かける時間だと気づく。
いつものヒーロースーツに着替えて外へ。
ジャスティス号の調子も良い。
街の中心部へと走り出す。

「あ、無免ライダーだ! こんにちはー」
「こんにちは」
「無免ライダー!」
「やあ!」

例えばこんなふうに、あの人も声をかけられることがあるのだろうか。
街をパトロールしたりする彼女も。
けれど、もしすっかりトレードマークとなったサングラスとマフラーをとっていたなら、きっとヒーローだなんてわからないのだろう。
僕も、道でなまえさんとすれ違ってもわからないということだ。
ここまで考えて、はたと、少し、なまえさんのことを気にしすぎではないかと思う。
素顔や、パトロールの様子なんて考えてどうするというのだろう。

「ん?」

何でもないような信号の前に、人だかりができている。
何かと思って覗いてみると、その中心には、かつて怪人だったと思われる肉片がバラバラと転がっている。

「これは……?」
「一足遅かったなあ」

僕の疑問に答えたのは、ヒーロー好きのおじさんだ。
僕もサインを求められたことがあるし、すれ違うと少しだけ話もする。

「これを、ほかのヒーローが?」
「ああ! 今注目の女子高生ヒーローの仕業さ。確かほら、なまえとか言ったかな。俺はずっとここで見てたんだけどすげえのなんのって。今はこんなだが結構でかい怪人でさ。でもそれを一瞬だぜ? しかもその後勝ち誇るでもなく勝ち名乗りを上げるでもなく、周りの人ごみに消えてっちまってさあ! どこから来たのかどこへ行くのかってやつ? いやあクールだねえ。すっかりファンになっちまったよ。いやもちろん、あんたのことも大好きなんだけどさ」
「あ、ありがとう」

まとめると。
これをやったのはなまえさんで、なまえさんは怪人を倒したら人ごみに消えてしまったのだという。
噂通りのスタイルの人だ。

「さっきまでここにいたのかい?」
「ああ! いたぜ! 惜しかったなあ、もうちょっと早ければ布の端だけでも見えただろうになあ」

布の端だけでも。
見たとしても、僕は一体どうするべきなのだろう。
なぜだか気になる存在ではあるけれど、実際会ったとしたら、何を話したいと思っているのだろう。
じゃあ、俺はそろそろ行くな。とその男性は去っていってしまう。
僕も行こうかとジャスティス号にまたがると、先程の男性とは異なる言葉もたくさん聞こえてくる。

「でもさ。ちょっと怖い気もするよ」
「案外有名人だったりして」
「見せられない顔してんじゃない?」
「犯罪者とかだったら怖いよね」
「かっここいいじゃん」
「めちゃくちゃ美少女だといいよな」
「わかんないんだからさ、もしかしたらまだここにいるかもよ」
「それは気持ち悪すぎるでしょ」
「ははは、案外そんなもんかもー」

す、と口を開くが、言葉は出てこない。
彼女のことをよく知らないまま吐く言葉は、彼らが噂する言葉と何も変わらない。
「きっと優しい人だ」
僕に彼女のことを教えてくれる人はいつも笑顔で、嬉しそうにしている。
だから、きっと。
けれど。
僕はやっぱり、彼女のことを知らないのだ。


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20160607:たった一つのシンプルな答え。
 
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