04 そのヒーローはなかなか強い


「弟子にして下さい」

喫茶店でコーヒーでも頼むかのような気軽さで、そんなことを言った。
俺の進行方向に現れた、邪魔な怪人を一刀両断した時の話だ。
何の特徴もないような女子高生であったが、度胸と、俺を師に選んだ目を見込んで弟子にしてやった。
思ったよりも飲み込みも早く器量も良いので、どこかふざけた態度であっても、俺を怒らせることは無い。
恐らくだが、なまえは必要に迫られて強くなろうというわけではなく、ただ、強くなったら便利だろうという軽い気持ちで声をかけてきている。
それが、第一声からわかっていたから、俺は結構厳しくしたのだけれど、なまえは文句一つ言わず俺についてきた。
気持ちは軽くとも、教えを乞う人間としては、きちんと覚悟を決めてきたらしかった。俺についたことを、「間違えた」くらいには考えたのかもしれないが、それを、態度に出すことは一切なかった。

「師匠」

俺のことをそう呼ぶなまえは、半年が経つ頃にはすっかり俺の弟子として立派に歩いていた。
相変わらず目的などあるんだかないんだかわからないが、ただ、自分が楽しく生きるためにいろいろとやっている、という感じは変わらなかった。
ちょっとしたうまいものを見つけたり、いい景色をみたり、そんなことを幸せだと感じる、やたらと年寄りめいた、けれど行動だけはする、そんな女だった。
そんななまえが、「ヒーローになる」と言ってきた。
もちろんそんなもの勝手にしたらいいし、俺は俺で、俺にとってそれが不利にならないのならばどうでもいい。
こいつならきっとうまくやるだろう。
案の定、数日後に合格を知らせるメールが入った。

「…………」

ふと気になって、今日は修行を早めに切り上げ、町へ出た。
騒がしいところを目指せば、そこには怪人がいるのである。
やたらと緑色のそいつは、程なくあるヒーローが片付けた。ばらばらに切り裂かれている。武器はワイヤー。
ビルの屋上からそれを眺める。
怪人のすぐ横をなんでもないように歩いているのがヒーローだ。

「はっ、あれでは誰が仕留めたのかわからんだろうが…………」

制服は、どこにでもありそうなセーラー服。
だが、首から上が特徴的だ。
やたらと鮮やかなオレンジの布を首に巻いていて、目からビームでも出そうなサングラスで顔を隠している。
なぜそんな不審者がヒーローとわかったか?
あれはなまえだからである。
怪人を一瞬で仕留めたはいいが、どうにも、変に目立つ格好をしていた。
民衆はなまえの強さに気付くことなく狼狽えている。
協会に連絡する、なんて細かいことはやりそうにない。
この1回ばかりは俺が報告しておいてやるか。
S級にはならなくてもいいなどと言ってはいたが、この俺の弟子がS級にもなれないとなっては、あまりいい気はしない。
それだけが全てではないものの、それが要因となって貶められると言うのも鬱陶しい話だ。
俺はヒーロー協会になまえの活動を報告してやると、しばらくなまえの姿を見ていた。
すると、一人の男が近寄ってくる。
あいつも、S級ヒーローだったような。
生意気にもなまえの心配をしていたらしかった。
持っている金属バットが武器らしいが、あんな程度の怪人と対峙したくらいで心配するなんて、侮辱以外のなんでもない。
なまえはそんなにやわではない。
しかし。
もしやあのヒーローが、なまえがヒーローを志すようになった理由だろうか。
あのバカ弟子は就職活動だとか意味のわからないことを言っていたが、そう考えるならそう考えるで、考えるきっかけになったものがあるはずなのだ。
そこを伏せたなまえのあの答えに、あまり信憑性はないと考えている。
が、例えばあの金属バットが、なまえの通う学校のクラスメイトであり、なまえがたまたまそいつの活動を見て、「ああ、あんなのもいいかもしれない」などと思っていたとしたのなら、ああいう答えになるのも納得だ。
確かに、説明するまでもないような単純な理由が出来上がる。
しかし、やはりその線は。

「………」

あの時のあいつの目は、もっと真剣だった。
サングラスをしているせいでわからないが、ここから見ていてもわかる気の抜け方。
志す理由、になるほどの影響力は、きっとあの男にはない。
少なくともなまえの態度は、ただ道端でクラスメイトに会った。そんな程度のもの。

「まあ、いい」

無様な戦いをしなければ。
俺の弟子としてふさわしい振る舞いであれば。
………、死ぬような大怪我をしないのなら。
怪我をするかもしれない相手に向かっていくようなやつではない。
また話を聞く機会もあるだろう。
何かあれば連絡するようにと、なまえにメールを入れて、その場を去った。
弟子がどうにもならないことは、師匠である俺が、なんとでもしてやる。


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20160601:行動派師弟
 
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