言うほど私は弱くない


ヒーローヒーローヒーローヒーロー。
ヒーローとはつまり何か?
私の中には確固たるビジョンがある。
ヒーローとはかくあるべき、それすなわち、無免ライダーさんのことである。
まあ。
敵を倒せないのは普通にまずいし、やっぱり、やられてしまっては仕方が無いのだけど。
今そんな話はしていない。
逃げ出さない、というよりは、逃げ出せない人のことを、きっと、ヒーローと呼ぶのだろう。
楽しそうだとは思わない。
けど、無免ライダーさんのことは、ただただかっこいいと思った。

「ヒーローになる……? なんだ、とうとう頭が沸いたか?」
「よくわかりましたね、その通り頭が沸いたんですよ」
「なんだそれは……」
「まー、師匠には鼻で笑われるような理由です。別に問題ないですよね? 私がヒーローを目指しても」
「俺を捕まえるのか?」
「え? あーそうか、でもいいです無理ですし、そんな事考えるだけで少し気が滅入ります」
「ふん、そうか。まあいいだろう。お前は俺が立派な忍びにしてやるつもりだったがな」
「なんていうか、師匠になってくれたことには純粋に感謝してますよ」

得意気に、私の師匠こと、音速のソニックは笑っていた。
ちなみに私は望んで彼に弟子入りをしたが、忍びの里の出身というわけではない。
つい最近まで普通に生きていたのだけれど、特に大層な理由はなく彼に弟子にしてくれと頼んでみたら、弟子にしてくれた。それだけのことだ。
師匠に比べたらまだまだだが、まあそのへんの怪人に負けたりはしない。

「お前ならすぐにS級に上がるだろう」
「え? うーん、S級には上がらなくてもいいんですけどねえ」
「? なんだそれは」
「いや、人にとってはくだらないでしょうが、私にとっては大変な理由がありまして」

バカにされるのをわかっていて、わざわざ本当のことを言うこともない。
でもさっきからどうにも理由を聞きたそうだ。
何といったものか。

「師匠のように用心棒、というのもかっこよさげではあるんですが、ほら、私は割合普通の高校生じゃないですか? だから、折角なので師匠に教わったことを活かして生きていこうかなーと思い至りましてね。それでヒーローをやってみようかというわけです」
「……なるほどな」
「はい、まあ早い話が就職活動ですよ」
「ふん、本当に大した話ではなかったな」
「そうなんです」
「で?」
「え?」
「それはS級にあがらなくてもいい理由にはなっていないが」
「あ、ああ、それは単純に、有名になったら自分の時間とか減りそうじゃないですか? だからS級になる必要は無いんです」
「我が弟子ながら欲のないことだ」
「生きていこうって欲があるじゃないですか」

わざとらしく笑うと、私は立ち上がり適当に埃を払う。
報告は終わりだ。
これ以上話しているとぼろが出る。
また報告は携帯ですることにして、私は弟子らしく小さく頭を下げた。

「では師匠。私はこれにて、師匠は引き続き修行されるんで?」
「当然だ。お前は、まあせいぜいくたばらんように立ち回ることだ」
「はい、師匠もお気を付けて」
「はっ、誰にものを言っている」

それもそうか。
私は笑うと今度こそ踵を返して歩き出す。
これで、師匠の許可もとったことになる。
これでよし。
確かネットから簡単に申し込みができるんだったかな。
体力試験と筆記試験があるんだとか。まあどちらも大丈夫とは思うが、作文とか書かされたりするだろうか? そこで、ヒーローになってみるか、みたいな適当さがバレて不合格にでもなったら笑えない。
でも、世間にはそれよりひどいのがのさばっているように見えるし、まあおそらくあまり心配することもないのだろう。
金属バットくんには何故かとめられたが、彼は私のことをあまり知らないはずだ。

「おい、なまえ」
「うわ、なにしてるんです師匠」
「餞別だ。これをくれてやる」
「………」
「これって師匠が首に巻いてるのとおなじものですか? 色は違いますが」
「そうだ」
「はぁ、ありがとうございます?」
「なんたその反応は」
「いや、忍びが選ぶにしてはずいぶんとあざやかなオレンジ色をしてるなあと思いまして」
「お前は忍びではないだろう」
「ええ、花の女子高生です」
「文句があるなら返せ」
「滅相もございません、顔を隠すのに良さそうですね」
「………、まあいいだろう。それだけだ」
「はい、がんばりますね」
「ああ」

師匠は、なんだかやたらと長くて鮮やかな色の布を私に押し付けて去って行った。
嫌に目立つが、まあ、ぎりぎりアリと言えなくもない。
いつ用意したのか知らないが、まあ彼の弟子であるわけだし、何かしら共通項があってもいい。
本当にいつ用意したのかわからないが、まあ、何の脈絡もなくプレゼントなんて流れよりはよっぽど受入れやすい。
餞別だ、と言った。
どうやら、ついでに応援もしてくれているらしい。
いい師匠である、かどうかと聞かれれば、まあ程々に、とか答えたくなる人ではあるものの、どこか憎みきれない。
そんな人である。
ときどきよくわからない改造武器の写真を携帯で送ってきたり、よってくる生き物に変な名前を付けたり。

「ソニック師匠」
「なんだ」
「また遊んでください」
「それが師匠に対する物言いか?」
「遊んでくだしい」
「殴るぞ」
「ははは、ほんと面白いですね師匠は」
「どこの世界に師匠を面白がる弟子がいる?」
「いやー、案外いるんじゃないですか?」
「ふん……、まあ許してやる」

師匠も、少しだけ笑った。

「で、どうしてもというなら、遊んでやってもいい」

きらり、と刀をのぞかせて不気味に笑う。
そうして、師匠は、今度こそどこかへ行ってしまった。
相変わらずとんでもないスピードをしている。
大した人……、たぶん人だと思う。
でもなにやら最近そんな師匠が手も足も出ずに負けたのだとか。
そう思うと、金属バットくんの言っていた、危ない、と言うのも、本当に危ないのだろうなあと思えてくる。
師匠でも歯が立たない、か。
そういう相手にも、きっと無免ライダーさんは向かっていくのだろう。
私も、師匠を尊敬しつつ無免ライダーさんも敬愛するという意味合いも込めて、この布とサングラスとかで顔を隠すことにしよう。
目立つのが嫌いだからとかではない。
それにより、見て欲しい、たった一人から見てもらえる可能性が低くなるとは、この時まだ考えられていなかった。

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20160527:お前かよ笑

 
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