俺が知っている君のこと


なまえという女子生徒は、一言で言えば行動力があるやつだった。
他人から「やればいいのに」なんていう言葉を吐かせないくらいには、既に行動している、と言うタイプの人間。
言葉も選ぶし気も遣うが、あまり遠慮はしないし、どんな人間にもぶつかっていくことの出来るやつだ。出来てしまうヤツ、なのかもしれない。
人の悩みなんかは、聞いているところしか見たことがなくて、成績なんかも普通で(元々はトップになったりするくらいだったと記憶しているが、ある時を境に学年の半ばくらいに落ち着いていた)、見ていると清々しい。
少なくとも俺は。
この席からは、なまえの姿が良く見える。
俺となまえはそれほど仲がいいということもないのだけれど。
ある日。
唐突に、本当に唐突に、なまえが言った。

「諸事情によりヒーローになろうと思って」
「はあああ!!?」

なんだそりゃ。
俺はしばらく叫んだ顔のまま停止していたが、クラスの奴らがぽそぽそと何かを話し出したところで我に返る。
意味がわからない。

「っ、ちょっと来い!」

俺はなまえの腕を引いて教室を出る。
ギリギリに来たせいで、クラスメイトもやけに多い。
屋上へとやってくると、俺はようやくなまえに振り返る。きょとんとこちらを見上げる両目は相変わらずかわ、てそんなことじゃねえ。そんなことじゃねえんだってば。

「………ヒーローって、あのヒーローか?」
「種類あるの?」
「ヒーロー協会のか?」
「そうそれ」
「もしかして冗談言ってんのか?」
「本気」

アホな質問をした。
俺は、なまえが、こんな冗談をいうようなやつではないことを知っている。
に、と笑うなまえに迷いはないらしかった。
相変わらず清々しい奴だ。
ところで俺は、こんなことを言い出したなまえをとめるべきなのだろうか。
危ないからやめろとか、そういうことを、言うべきだろうか?

「……」
「……?」

首を傾げるなまえ。

「あぶねーぞ?」
「大丈夫」
「怪我したらどーすんだよ」
「それは病院行くしかないと思う」
「……どーーーっしてもヒーローになりてーってのか?」
「うん」

一歩も、あるいは半歩すら引きそうになかった。
これは俺がうるさくやめろだなんだと言っても聞き入れてはもらえなそうだ。
そもそも、だ。
なぜこんなに唐突にヒーローになるなどと言い出したのだろうか。
確かに行動力はあるが、その行動の原動力となっているものは、正義感ではなかった気がする。
なまえはいつも、どんなときにそこいらを動き回っていただろうか。

「なんで、ヒーローになりてーんだよ?」

サボる時間がかぶった時、たまたまコンビニであった時、帰りが同じ時間になった時。
もっと言葉を交わしておくんだった。
なまえは、こんな後悔をしないのだろうと思うと、やはりなまえは男の俺から見てもかっこいい存在だった。
そんななまえが言うのだ。

「あるヒーローに憧れて」

キラキラとした笑顔に、つい目を細める。
ある、ヒーロー。
なまえが、憧れるような、ヒーロー???
………。
…………………誰だよ。
S級の誰かだろうか?
それとも、アマイマスクだったりするのか?
いや、クラスメイトが盛り上がる中興味無さそうに適当に相槌を打っていた姿を思い出す。
なんだか愉快だったこともついでに思い出したところで、思考がズレていることに気付く。

「あんなヒーローに、なってみようかと思って」
「お前なあ……、ただの女子高生なんか仮にヒーロになれたとしたってB級にもあがれねえぞ?」
「で、さ。テストとかあるの?」
「おい」
「体力テストみたいな?」
「聞けよ! 話を!」

聞いてる聞いてる、となまえは笑う。
はじめて知ったが、案外自信家のようだ。

「ありがとう。でもほんとうに、ダメそうなら他の方法考えるし」
「はーー………、危なくなったらすぐ言えよ」

俺はまんまとなまえの連絡先を手に入れて、ヒーロー試験の受け方を教えてやった。
こんなになまえと話ができたのも久しぶりだ。話の内容は微妙ではあるものの、それは嬉しいことだ。
もしかしたら、この流れでもっと近付くことが出来たりするのかも知れない。
ちらりとなまえを見るが、フェンスの方へ移動して携帯をいじっている。
ヒーロー協会のホームページを見ているようだ。
憧れているヒーローがいるとか言っていたが、ホームページは見なかったのだろうか。あんなにでかでかと募集されているのに。
だが、ついでに、そっとなまえの顔を盗み見ると、まさにそれしか見えていない、と言うようなきらきらとした目に、横にいるだけでくらりとした。

「試験合格したら、い、祝うくらいはしてやるよ……」
「ん? ありがとう! じゃあ私は教室戻るね」
「はー? このままサボる流れじゃねーのか?」
「あー、あの人はそういうの、よしとしなさそうだから」
「………」

相当ご執心らしい。
ちょっとむかつく。

「じゃあまた」
「おう」

ひらひらと手を振っても、なまえの目には写っているかどうかさえ怪しかった。
嬉しいような釈然としないような、そんなひとときではあったものの、今日はなまえの知らなかった部分をいくつも見ることが出来た。
が、今日も進展はなし。

「はぁ」

ため息が出る。
なまえの言う憧れというやつが、俺がなまえに抱く感情と同じものではないことを祈るばかりだ。


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20160520:金属バットくんはかっこいい。
 
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